「表紙」2020年01月16日[No.1810]号
結果ばかり考えず行動しよう
理学療法士の我如古純也さん(33)は、うるま市の「高齢者複合施設 A&S」と関連施設の「デイサービス リブ」で働きながら、休日はオール北谷硬式野球部の監督を務める。オール北谷はNPO法人沖縄県ジュニア育成会のチームの一つとして加盟しており、野球部を引退した中学3年生のみを対象とする。一人一人の在籍期間は短いが、我如古さんは野球を通して子どもたちの将来を見据えた指導に力を注ぐ。
部活動を終えた中学3年生の中には、気が緩み生活態度が乱れてしまう子どももいる。そのことに心を痛めた野球少年の父母らは健全育成と居場所づくりのためオール北谷硬式野球部を発足。いまから14年前のことだった。
当時、理学療法士を目指し専門学校に通っていた我如古さんは、もともと野球をしていたことからオール北谷の存在を知り、手伝うようになった。
「僕の両親も少年野球の手伝いをよくやっていた。そんな両親の姿を見ていたから、僕も何か人のためにできることをしたいと思ったのかもしれない」と話す。
挑戦しやすい環境へ
20歳そこそこで子どもたちを指導する立場になり、試行錯誤を重ねてきた。
「最初のころはよく怒鳴っていた。年が5歳しか離れていないので、なめられたくないという気持ちもあったけど、僕自身が厳しい指導しか受けてこなかったのでこれが正しい指導方法だと思っていた」と振り返る。
ある日、子どもたちが野球の大会をボイコットした。対戦相手や大会主催者に謝罪し、思ったことは「悪いのは子どもたち」だということ。しかし、よくよく考えてみると「たぶん野球が面白くないから」だと気付き、指導方法が間違っているのではと思い始めた。
「今まで一つ一つ手を掛けることがいいことだと思っていた。でも、子どもたちが納得しなければ意味がない。だから思ったことを好きにやらせて、失敗したり悩んだりしたときに初めて『今、どう?』『なんでこうなったと思う?』などと話し掛け、気付かせてあげるようにした」
子どもたちの柔軟な発想を壊さないよう、ミスをしても怒らないことで挑戦しやすい環境をつくった。指導方法が変わるとチームの雰囲気も明るくなっていった。そうなったのも、前オール北谷の監督で現在は育成会理事長の崎山隆さんのおかげだという。
「崎山さんは僕が子どもたちをどんなに怒っても、その場では何も言わなかった。そのときの僕は精いっぱいやっていたから、いろいろ言われていたらたぶん反抗していたと思う」
崎山さんからは「感情をぶつけるだけでは何も伝わらない」など多くのことを教えられ、軌道修正ができた。
子どもの将来楽しみ
野球以外でも子どもたちのために何かできないかと考え、職業を生かし認知症サポーター養成講座の講師資格も取得。育成会の子どもやその親たちを対象に、県内3カ所でそれぞれ100〜200人規模で講座を開いた。当初、複数の市町村にまたがる地域から大人数が集まり受講するということは県では前例がなく、国に問い合わせてもらい実現することができた。
我如古さんは講義をする際、オール北谷のユニフォームを着て、「理学療法士」だということを伝える。「何かあればいつでも相談においで」と気さくな態度で接し、子どもたちのほうから話し掛けやすい雰囲気づくりも欠かさない。それにはこんな理由があった。
「野球にはけがをしても試合に出るのが『美徳』というような、根強い『根性論』がまだまだある。だから体に不調があっても親や指導者に言えない子どもがいる。そのために『オール北谷に理学療法士がいる』ということを認識してもらいたい」。実際、相談に来た子どもが骨折していて、それでも「明日、投げます」と言うのを止めたこともある。
指導者として13年目を迎えた我如古さんは、「結果ばかり考えないで、とにかく行動に移し、挑戦することが大事。挑戦しなければ失敗もないけれど成功もない」と語る。それは、野球だけでなく人生においても同じ。
「将来、この子たちが社会に出てどうなっていくのかめちゃくちゃ楽しみです」と笑顔を見せた。
(﨑山裕子)