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[No.1818]

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「表紙」2020年03月12日[No.1818]号

島の暮らしが生んだおいしさめしあがれ
大東寿司(だいとうずし)

ルーツは保存食島で愛される家庭の味

 南北大東島で作られる大東寿司は、保存食であるとともに家庭料理、祝い事や法事、おもてなしの一品でもあり、おみやげとしても定番だ。これほど生活のさまざまなシーンで親しまれる料理はめずらしい。那覇市内で「元祖大東ソバ」を営む南大東島出身の伊佐譲二さんに、大東寿司の魅力と島でのエピソードを聞いた。

 那覇市牧志にある「元祖大東ソバ」は今年5月で開店20周年を迎える。店主の伊佐譲二さんの父親が南大東島で経営する店舗がのれん分けしてスタートした同店。沖縄そばとは麺の種類が異なる「大東そば」が人気だが、同じく名物として知られているのが大東寿司だ。

 大東寿司は、南北大東島の開拓を担った八丈島出身の人々が伝えたとされる郷土料理。しょう油・みりん・砂糖を基本としたタレに魚を漬け込んで寿司ネタとする点が特徴だ。島では主にサワラやマグロを使用するという。

 もともとは冷蔵庫が無かった時代の保存食として生み出された大東寿司だが、現在ではおみやげとしても定着。空港でも販売されている。伊佐さんも「うちの店で提供を始めたころには、島の先輩方がすでにそのおいしさを島外に広めていました。なので特別めずらしがられることはありませんでしたよ」と話す。

家庭ごとに個性が

 名前に「寿司」と付くものの、大東寿司は家庭料理。伊佐さんは「各家庭でお母さんやおばあちゃんが作る普段の食事。おにぎりを作るような感覚なので握るのも特別な技術がいるわけではありません」と話す。作った寿司は1日程度常温で保存できるので、前の晩作った寿司を翌日のお昼や間食に食べる、というのも島ではめずらしいことではない。

 大東寿司は普段の食事として親しまれる一方、お祝いや法事など特別な日の料理にもなる。そのため、島の人たちはよその家で大東寿司を食す機会も多々あるのだが、この時、寿司の味や形に家ごとの違いがあることに気づくという。シンプルな料理だが、タレの配合や、刺身を漬ける時間、握り方で家庭ごとの個性が出るのだ。

 伊佐さんは「ぼくと同じ40代かそれより年配の島の人なら『どこの家の大東寿司がおいしい』『あそこの寿司はおはぎみたいに大きい』なんて話で盛り上がれるはずです」と笑う。

 南大東島では近年、スーパーなどでも大東寿司が購入可能となり、家庭で手作りする機会は減ってきている。しかし、生活のさまざまな場面で大東寿司が重宝されることには変わりないようだ。

名店のレシピ受け継ぐ

 現在「元祖大東ソバ」で提供する大東寿司は、ネタにマグロやカジキを使用して作られる。寿司は注文が入ってから握り、魚とシャリの組み合わせを楽しめるよう「一口で食べきれる大きさ」にもこだわっている。

 味の決め手となるタレや漬け方に関する詳細は企業秘密だ。しかし伊佐さんは「うちの寿司は、南大東島でおいしいと評判だったおそうざい屋さんのレシピを教えてもらったんですよ」と話してくれた。現在は閉店してしまったが、島でそうざい店を営んでいた、照屋さんという女性に伝授してもらったのがお店の大東寿司であるそうだ。

 受け継いだ大東寿司のレシピは、さまざまな魚介類に応用可能であると話す伊佐さん。取材の際は、偶然水揚げされたアカマンボウを使って仕込みが行われていた他、「サーモンやイカの刺身を漬け込んで作ってもおいしいんですよ」と教えてくれた。シンプルだが奥深い、大東島の住人自慢のソウルフードを、ぜひ味わってほしい。

(津波典泰)



元祖大東ソバ
那覇市牧志1-4-59
☎︎ 098-867-3889
営業時間:11時〜17時
定休日:無し

大東そば いちごいちえ
南大東村在所134
☎︎ 09802-2-2230
営業時間:11時半〜14時
定休日:月曜

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大東寿司(だいとうずし)
漬け込んだ刺身をネタにする大東寿司。テーブルに運ばれてくると、しょう油を基本にしたタレの香りがふわっとただよう。照りのある見た目も合間って食欲をそそる一品だ 写真・村山 望
大東寿司(だいとうずし)
那覇市牧志にある「元祖大東ソバ」で大東寿司を提供する、店長の伊佐譲二さん(右)とスタッフの新垣北斗さん 写真・村山 望
大東寿司(だいとうずし)
「大東そば いちごいちえ」で提供される大東寿司。那覇の「元祖大東ソバ」の寿司とはレシピが違うそうなので、両方の店舗の味を食べ比べてみたい(写真提供:伊佐譲二さん)
大東寿司(だいとうずし)
タレに漬け込む前の刺身。この日は泊港で偶然水揚げされたアカマンボウが準備されていた
大東寿司(だいとうずし)
那覇の「元祖大東ソバ」の関係者が経営する、南大東島の「大東そば いちごいちえ」(写真提供:伊佐譲二さん)
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