「表紙」2020年03月19日[No.1819]号
沖縄音楽を織り込んだ壮大な交響組曲
創立20周年を迎えるプロオーケストラ、琉球交響楽団(琉響)。今月、15年ぶりに発表した新作CD「沖縄交響歳時記」は、「かぎやで風」「唐船ドーイ」などウチナーンチュの生活を彩るメロディーを織り込みながら、沖縄の四季を詩情豊かに描いたオリジナルの交響組曲だ。琉響の音楽監督・大友直人さんは「沖縄交響歳時記は、これからの琉響を代表する作品の一つになると思う」と話す。
壮大なオーケストラの響きに乗せて、新年を祝う「かぎやで風」のメロディーが響いてくる―。
琉球交響楽団が発表した新作交響組曲「沖縄交響歳時記」のオープニングだ。同組曲は6楽章から成り、新年から春、夏、秋、冬、そしてフィナーレのカチャーシーまで、沖縄の四季折々の風景を描き出す。時には優美に、時にはダイナミックに響く詩情豊かな表現は、オーケストラならではの醍醐味(だいごみ)だ。
オーケストラには、素人が少々とっつきにくい印象もある。だが、沖縄交響歳時記には、「かぎやで風」をはじめ「てぃんさぐぬ花」「谷茶前」「唐船ドーイ」などの親しみ深いメロディーが織り込まれており、三板や島太鼓も登場して耳を楽しませてくれる。慣れ親しんだ旋律が、多種多様な楽器で演奏されることで、その魅力にあらためて気付かされる。
琉響の新たな代表曲に
ミュージックアドバイザーとして、創立時から琉響の活動に関わってきた指揮者の大友直人さんは、沖縄交響歳時記が琉響を代表する作品の一つになるはずだ、と話す。またクラシックの演奏会はもちろん、映画やテレビ番組、セレモニーなど、さまざまなシーンにも広がっていく可能性を秘めた楽曲と期待する。
作曲はこれまでに日本の主要なプロオーケストラに数百曲以上の楽曲を提供した実績を持つ萩森英明さん。「期待していた以上に完成度の高い曲に仕上がった」と大友さんは胸を張る。昨年11月、ルーマニアで現地のオーケストラが第2・第3楽章を演奏した際にも、聴衆から喝采を浴びたという。
4月3日(金)のてだこホール、続く6日(月)のサントリーホール(東京)での琉響創立20周年記念コンサートでは、沖縄交響歳時記から全楽章を披露する予定となっている。「東京公演は完売した。琉響の活動は東京でも注目を集めている。てだこホールでまず沖縄交響歳時記を初演するので、ぜひ県民の皆さんに聞いてもらいたい」と呼びかける。
クラシック界に風穴を
だが、制作の道のりは平坦ではなかった。資金不足から一度は企画が白紙に戻りそうになったが、「クラウドファンディングで県内外の皆様からご支援を得て、CDの発売にこぎつけた」と経緯を話す。
華やかに見えるオーケストラの世界だが、その実情には厳しい面もある。大規模な編成ゆえ費用がかさみ、演奏会でホールを満員にしたとしても赤字にならざるを得ず、琉響は自治体や企業のサポートを十分受けることがいまだに出来ず、ギリギリで運営を続けている状態だという。
創立に大きな役割を果たした元NHK交響楽団の首席トランペット奏者で県立芸術大学教授の祖堅方正さんが13年に急逝し、琉響は存続の危機に見舞われたが、団員が結束を固めることで乗り越えた。「メンバーは家族以上の付き合い」とコンサートマスターの阿波根由紀さんはほほ笑む。
中央と地方の格差という問題もある。しかし大友さんは琉響を「どこに出しても恥ずかしくないオーケストラ」と評し、「琉響がやってきたことが中央にとっての希望、モデルケースになるかもしれない」と中央偏重のクラシックの世界に風穴を開ける役割を期待する。
「沖縄には豊かな芸能の文化があり、クラシックの世界でも祖堅先生など優秀な演奏家を輩出している」と大友さん。その土壌を生かし、文化的なソフトを充実させることが沖縄にとっての大きな力となる。「今回のCDはその第一歩」。大友さんは沖縄から全国に、そして世界に向けて発信する琉球交響楽団の大きな可能性に思いをはせる。
(日平勝也)
琉球交響団特別演奏会
4月3日(金) アイム・ユニバースてだこホール 大ホール 18時開場 19時開演
入場券:一般3000円、学生1500円、親子券 3500円(当日券 各500円増)
指揮:大友直人
演目:モーツァルト 歌劇「皇帝ティートの慈悲」序曲、ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」、萩森英明「沖縄交響歳時記」
予約・問い合わせ:090-9783-7645
作曲・萩森英明、指揮・大友直人、演奏・琉球交響楽団
定価 3000円(税別)
発売元 リスペクトレコード
(電話:03-3746-2503)