「表紙」2020年06月11日[No.1831]号
糸満の市場から文化を発信
淡い色彩の「ペールシーサー」、カラフルな「糸満シーサー」、自分で絵付けをしてシーサーを完成させる「キットきっとオフ」、伝統的な張り子「チンチン馬小(うまぐゎー)」、糸満の伝統行事がモチーフの張り子「アヒラー」……。設立10年を迎えた工房「ニャン山」は伝統の技法を追求しつつ、現代的な作品を生み出している。職人2人はその存在とアイデアで糸満の市場に新しい息吹を吹き込んできた。
建て替え工事を終えた「糸満市場 いとま〜る」に約2年ぶりに戻ってきた工房「ニャン山」。工房兼店舗には個性あふれる漆喰(しっくい)シーサーや琉球張り子が並ぶ。
ニャン山はシーサー職人で代表の上原新吾さん(35)とハリコ職人の赤嶺康浩さん(36)が営む工房。メインの活動拠点である糸満市に工房兼店舗を、那覇市に工房とギャラリーを構え活動している。
独学で技術を学んだという2人。伝統的な技法を継承しながらも、現代的でオリジナリティーあふれる作品を作り続けている。上原さんは「漆喰シーサーはもともと瓦屋根を葺く際に余った漆喰と赤瓦を再利用して生まれたもの。捨てるものを守り神様に変えた沖縄の知恵。沖縄の赤瓦屋根も減りつつある今、漆喰シーサーが残ることによって、赤瓦屋根の歴史も伝えていくことができる」と語る。
「張り子はもともとユッカヌヒー(旧暦5月4日)に親が健やかな成長を願い子どもに与える郷土玩具だった」という赤嶺さんは、伝統的な琉球張り子の他、糸満の伝統行事をモチーフにしたものや、ユニークなオリジナル作品などを制作している。
市場の活性化にも貢献
ニャン山の設立は2010年4月3日の「シーサーの日」。高校の同級生で同じシーサーを扱う工房で働いていた仲間が集まり独立。那覇市に共同で借りていた安アパートの「秘密基地」から出発した。
2012年の11月に上原さんの地元、糸満市の公設市場に入居。商店街の人たちにとって孫世代。打ち解けるまでには時間がかかったという。でも人々の本質が見えてくると糸満が大好きになった。
「するどいことを言われたり、厳しい面もあったりするけど、温かさを感じる」と言う上原さん。南風原町出身の赤嶺さんも「みんな芯が強い。厳しい言葉の中には冗談や、思いやりが隠されているのに気付くと一気にその魅力にはまる」と続ける。
市場にとけ込んでいった2人。そのうち若い力が期待され、入居の翌年には上原さんが糸満市中央市場商店会会長に、翌々年に赤嶺さんも事務局長に選出された。
そんな期待に応えるように2012年からは、手作り市「ちむちむ市場」を生み出した。商店街に関わる有志のメンバーの協力を得て2カ月に1回開催されるこのイベントには幅広い世代が来場した。開催当初、多くの人が訪れ、かつての「まちぐゎー」の雰囲気が戻ってきたと話題に。「初めは人が来るわけがないと言っていた市場のおばちゃんたちは『こんなことってあるんだね』と感動してくれた」と上原さんは振り返る。約15店から始まった出店数も最近は60店舗に増えたという。新型コロナウイルスの影響によりしばらく開催を自粛していたが、対策を徹底した上で7月の再開を検討しているそうだ。
新施設で再出発
新施設での出発に「約2年ぶりに糸満でお店を再開するので、なじみの顔も見たいし、新しく知る方々に会えるのも楽しみ。みんなと糸満の新スポットをつくっていけたら」と上原さん。「近隣で生活していた人たちが『帰ってきたね』と声を掛けてくれ、歓迎してくれる雰囲気を感じた。地域を盛り上げていきたいという気持ちはある。今後の糸満に注目してほしい」と赤嶺さん。これからも面白いことをたくらんでくれそうな2人。伝統工芸と市場の魅力を幅広い世代に届けてくれそうだ。
(坂本永通子)
ニャン山 糸満工房・店舗
糸満市字糸満989-83 糸満市場いとま〜る内
那覇工房・ギャラリー
那覇市松川1-14-6
☎098-855-0043
https://www.nyanzan.com/
※那覇工房に行く際は要連絡
写真は旧市場で行われた時のもの
写真は旧市場で行われた時のもの