「表紙」2020年10月01日[No.1847]号
オブジェの発想を焼物に
浦添市内の工房で、ユニークな焼物をつくり続けている陶芸家の赤嶺学さん(52)。 自転車のオブジェを陶器で作り上げたり、未来をテーマにした器を作ったり、自由な発想で焼物に取り組んでいます。
赤嶺さんの工房には、さまざまなスタイルの焼物が所狭しと並ぶ。
入り口近くの棚には、「未来」をテーマに制作された器がズラリ。未来と行っても、イメージしたのは、大阪万博や昔のSF映画のような、レトロ感のある未来だ。宇宙船を思わせる流線型のカップ、銀色に輝くプラチナを蒸着させたカップなど、ユニークな造形や工夫が光る焼物には、新しさとともにどこか懐かしい雰囲気が宿る。
だが、もっと驚かされるのは、奥の棚に陳列された焼物である。なんと、自転車をモチーフにしているのだ。「鉄などで自転車のオブジェを制作している人はいるけれど、あえて焼物で作るという人は他にほとんどいないんじゃないかな」と赤嶺さんは話す。
自らの世界を追求
赤嶺さんは、県立芸術大学のデザイン工芸学科工芸専攻・陶芸コースで陶芸を学んだ。
高校で陶芸に触れていたこともあり、陶芸の技術をスムーズに習得。周囲からも一目置かれていたというが、大学3年の発表会で転機が訪れる。
「それまでは与えられた課題をこなしていたのが、その時は好きなものを自由に作りなさいと言われた。でも、いざそう言われると何も思い浮かばなかったんです」。悩んでいた時、オブジェとして作られた陶芸作品と出合った。
器などの実用的なものを作るのではなく、純粋に芸術的テーマをもとにした造形を追求するスタイルに衝撃を受け、一気にオブジェの世界にのめりこんでいった、と赤嶺さんは振り返る。
「こんなに自由な世界があったんだ、と。でも、考えてみれば小学校の時から絵を描きたいと思っていましたから、創作に対するあこがれはあったんでしょうね」
芸大卒業後は工房でアルバイトの傍ら、県外のギャラリーにも足繁く通い、自らの世界を追求。5年後に作品展を開き、作家活動をスタートさせた。同時に、作品展に訪れたギャラリーの人々から「器も作ってくれないか」と依頼され、オブジェ的な発想を取り入れた器の制作も始めた。
自転車をモチーフに
もう一つの大きな転機は2004年。赤嶺さんは、ダイエットのために購入した自転車の世界にすっかり魅了されてしまった。「自転車のことばかり考えるようになって、それならいっそ、焼物で作ってしまおう」と思い立ったという。
複数のパーツにより構成される自転車を陶器で再現するのは容易ではなかったが、オブジェの制作で培った技を投入し、形にしていった。「土は焼くと収縮したりねじれたりとさらなる表情を見せる」と赤嶺さんは焼物ならではの自転車オブジェの魅力を語る。
自転車をモチーフにした赤嶺さんの作品は県内外で注目を集め、 東京では年に一度のペースで新作の展示を行っている。「自転車の作品は、いろいろな出会いをもたらしてくれた」と満面の笑みで話す。
その時表現したいと思うテーマを見る人に分かりやすく伝えたいと考えて作品づくりに取り組む。その結果、新しい造形やスタイルとなり「作品展の時にはお客さんに戸惑われることも多い」と苦笑するが、「何か新しいものを一つでも感じ取ってくれたら、その展示は『よかったな』で終われる」と笑う。
赤嶺さんの作品は、県外での展示や販売の機会が多いが、地元・沖縄でも数年に一度のペースで、器の発表会を開いている。次回は来年2月の開催を予定しているとのこと。どんな作品が登場するのか、今から楽しみだ。
(日平勝也)
赤嶺さんの器は、県内では沖縄市久保田のプラザハウスショッピングセンター内「フラッグシップオキナワ」、那覇市壺屋の「陶・よかりよ」で販売。自転車がモチーフのカップは北谷町北前の「タイラサイクル」限定