「表紙」2020年10月29日[No.1851]号
生きた文化財、琉球犬を守りたい
「不撓不屈」(ふとうふくつ)を校訓に約570人の生徒が在籍する県立中部農林高等学校は、自然・技術・人に重点を置いた学科で学びを得る学校。熱帯資源科で自然体験や動物・作物について学習しており、その中で動物コースを選択すると愛玩動物の飼養管理を実習する。県の天然記念物である琉球犬(りゅうきゅういぬ)に関するプロジェクトも継続中とのことで、現状を聞いてみた。
子どものころから動物好きで、「県内唯一の犬について学べる学校」である中部農林高校・動物コースへの進学を迷わずに決めた平良千和(たいら・ちより)さんと伊礼美緒里(いれい・みおり)さん。現在3年生で、「動物に関わる仕事に就きたい」という思いを抱きながら日々学び、動物と過ごす高校生活を楽しんでいる。
「犬舎と鶏舎の管理を主に行っています。動物について授業で学び、部活動ではアニマルセラピー犬の育成につながる訓練やグルーミング(手入れ)に力を入れています」と平良さん。22人の部員がいる動物介在部の部長を務めている。
「小学生の時からこの高校を目指していました。幅広い知識を得られて、資格取得に向けた勉強もできます。入学前よりたくさんのことを知ったと実感していますし、犬について学びたい気持ちが前より強くなっています」と話す伊礼さんは、琉球犬・松虎(ショウト)の世話係を担当している。
動物病院やペットショップで働く際に生かせる「愛玩動物飼養管理士」や「動物愛護社会化検定」の資格取得に向けた授業を受け、学校やイベントに出向いてアニマルセラピー体験や犬猫殺処分の実情を伝える活動も行っているそうだ。
生徒主導のプロジェクト
中部農林高校の取り組みの1つに「琉球犬プロジェクト」がある。県指定の天然記念物であるにもかかわらず、情報が少ない琉球犬。その普及と啓発活動を行うプロジェクトで、伊礼さんと平良さんが中心になり進めている。
大きな耳がピーンと立っている琉球犬は、毛色が4種(赤虎・黒虎・白虎・赤犬)で狩猟犬のため胸部が厚く、オオカミの遺伝子の名残で狼爪(ろうそう)があるなどの特徴を持つ。校内で飼育している松虎は生後約6カ月だった4年前、「琉球犬保存会」から譲り受けた雄犬で現在5歳だという。
「警戒心が強く知らない人には懐きません。慣れてくると『触って〜』と甘えてきますが、急に逃げたりするのでツンデレですね(笑)」と松虎の性格を語る伊礼さん。「琉球犬だ!」とイベントや出前授業で注目される松虎の存在をきっかけに、琉球犬の認知度を高めていければという思いがあるそうだ。
琉球犬がいなくなる!?
卒業を4カ月後に控えた平良さんと伊礼さんだが、気に掛けているのはプロジェクトの引き継ぎと琉球犬の未来。高校生の強みとしてインターネットを活用したりイベントに参加するなど、若い層に琉球犬をアピールできるプロジェクトとして、後輩に託したいという。そして心配なのが、松虎を含めた琉球犬の今後だ。「琉球犬保存会」が10数年休止中で、血統書の発行が行われていないといった現状があるとのこと。
「血統書付きの琉球犬はほぼいないと思われます。血統書のない親から子犬が生まれ、ミックスも増えてきているはずです」と訴える伊礼さん。
「このプロジェクトだけでは解決できない問題があります。私たちの代は保存会を訪ねたことがないので、連絡してみるのも良さそう」と考えている平良さん。
保存会の機能がストップしていることで種の保存や繁殖がしっかりと行われておらず、飼い主間のつながりもないといった問題が生じているようだ。犬にとっての血統書は、人に例えると戸籍や家系図のようなもの。琉球犬として育てていても、血統書がないと純粋犬種であると証明できないのだ。この現状が今後も続くと、純粋な琉球犬がいなくなるのではないか…伊礼さんと平良さんの話を聞き、筆者も危機感を覚えずにはいられなかった。
私たちが守っていかなければならない琉球犬。中部農林高校のプロジェクトをきっかけに各方面で連携を取りながら、沖縄が誇る天然記念物として大切にし増えていくことを願う。
(饒波貴子)
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