「表紙」2022年03月24日[No.1924]号
シアターをプライベート感覚で楽しむ、ぜいたく時間
2015年にオープン、来月から8年目に突入する「シアタードーナツ」。代表の宮島真一さんは沖縄市出身。「県産映画を見てもらう場所をつくりたい」という思いで地元での開館を決めた。また1960年代には市内に10館ほどあった映画館がなくなっていく寂しい現実に向き合い、沖縄市の映画文化の拠点となる「映画館の歴史をつなぐ」役割りも担ったようだ。映画愛あふれる宮島さんに、シアタードーナツでの映画の楽しみ方を聞いた。
「映画館を貸し切って映画を鑑賞したい」という願いをかなえてくれるシアタードーナツ。
「オープンからしばらくは19時台の上映スケジュールを組んでいましたが、お客さまが来ない。どうしてか考えた結果、よっぽどの理由がない限り仕事を終えた平日の夜に映画館には行かないことに気付きました」と宮島さん。
その後通常上映は夕方終えるように設定し、夜時間はトークイベントや貸し切り上映などテーマを掲げてスクリーンを使うことに決めたそう。
「特別上映をして製作関係者や作品について語るゲストを招くトークイベントを、時々開催しています。貸し切り上映は身近な人と同じ作品を見ることで、共有した思いを語り合うことができる。どちらも好評ですよ」と宮島さんは話す。
5人から利用できる貸し切り上映は、注目のシステムだ。上映中の作品を家族や親戚・知人、職場やサークル仲間など気心知れたメンバーで楽しむことができる、ぜいたくな時間と空間を提供する。
「上映後は、知っている同士で感想などをユンタク(おしゃべり)して帰ってくださいと伝えていますよ」という宮島さん。映画を見終わった後に誰かに話したくなる気持ちをその場で表現し、余韻に浸ってほしいそうだ。
映画で変わる人生
宮島さんは、スティーヴン・スピルバーグ監督によるSFファンタジー作品『E.T.』(1982年製作)を少年時代に鑑賞したことをきっかけに映画に魅了され製作などに携わり、ついには映画館を開設。「映画は人生を変えるほどの影響力がある」ことを体現している人物だといえる。
そんな宮島さんが大切にしている作品の一つ『人生フルーツ』は、高齢夫婦を追ったドキュメンタリー。
「この作品を見たのか見ていないのかで、人生が変わるはずです。新しい仕事を始めた、人に優しくなったなど、多くのお客さまが体験を報告してくれました。僕自身も仕事のオファーをいただいた時、担当者がこの作品を見たかどうかを確認。まだの場合は見てもらうようにしています」と笑う宮島さん。「沖縄県民全員に見てほしい」と願い、何と5年近く上映を続けている。
「映画は一般的に上映期間が決まっています。見たいと思っていたら終わってしまって…と言われることが腹立たしく、『5年たっても見られないほど忙しい人生なの?』と嫌味が返せるように、まだまだ上映しますよ(笑)」とのこと。これほどまでに時間と情熱をかけて薦めるのなら、必見作品だろうと納得させられる。
月に一度は映画館へ
館内には2つのシアタールームがあり、各20席ほどの座席は全てテーブル付き。カフェスタイルで映画を見るシアタードーナツは、シネマコンプレックス(シネコン)と呼ばれる大型の複合映画館とは楽しみ方が異なる。上映前と上映後に宮島さんによる解説で作品について紹介するなど、観客とコミュニケーションを取っているのも特徴的だ。
「感動したら気持ちを独り占めせず、自分の言葉で友達や家族に作品の感想を伝えてほしいとお願いします。その行動が本人の中で作品の印象を強くしますし、口コミとなって連鎖も起こします。毎日1人以上、初来館のお客さまが必ずいるんです」と宮島さん。「登場人物に共感し、展開に心を揺さぶられる。映画を見ることで時間の過ごし方や価値観を刺激できれば、という気持ちで映画館をやっています。沖縄県民が月に一回映画館に行くとどうなるのだろうとイメージしながら、現実になるよう呼びかけます!」と言葉を強めた。
スクリーンを通して見知らぬ街や国の人々と文化に触れ、さまざまな事実や思いを伝えてくれる映画は、私たちにとってとても近くにあるエンターテインメント。シアタードーナツの存在が、映画との出合いを変えてくれそうだ。カフェのみの利用や見学も歓迎してくれるので気軽にどうぞ。
(饒波貴子)
シアタードーナツ
沖縄市中央1-3-17(沖縄市胡屋バス停前)
☎︎ 070-5401-1072
https://theater-donut.com
営業時間:10:30~最終上映まで・年末年始を除き年中無休
鑑賞料金:1320円(一般)、1100円(中高大生)、700円(小学生)、未就学児童無料
<貸し切り上映> 人数:5人~20人
時間:17時30分~21時の間
料金:鑑賞料金プラス1ドリンク代X人数分
※作品は希望日の「上映中リスト」から選ぶ