「表紙」2022年09月22日[No.1950]号
読書好きだった少女が漫画家に
浦添市在住の漫画家、喜名常稀(きな・つき)さん。1996年、全国発売 の漫画雑誌に喜名朝飛(あさと)のペンネームでデビューを飾った後、10 年にわたって連載を続けた実績がある。その後は、週刊レキオの連載 『マルマル行進曲』をはじめ、県内のメディアや自治体、企業向けに漫 画、イラストを執筆。専門学校の漫画講師も務めている。レキオ記者が、 喜名さんの仕事場を訪ねた。
喜名さんの仕事場は、壁一面 が本棚になっており、膨大な数 の漫画の単行本がズラリと並 ぶ。
本棚の一角には、喜名さんが 全国誌で連載した作品がそ ろっていた。『幕末風来伝斬郎 汰』『Noesis-ノエシス-』『東京 魔人学園剣風帖』など、単行本 は 20 冊を超える。圧倒的なボ リュームだ。いずれも豊かな想 像力、流麗なペンタッチが光る。
全国誌の連載に奮闘
浦添市で生まれ育った喜名 さん。「読書が好きな子どもで した」と振り返る。本を読んで は、空想や想像を膨らませてい たという。
絵を描くのも好きだった。祖 父は画家の故・具志堅以徳さ ん。そのため絵画に触れる機会 も多く、デザインの仕事がした いと名古屋芸術大学に進学。 そこで初めて、漫画を描く楽し さに目覚めた。
きっかけは、大学のクラス メートが同人誌で漫画を描い ていたこと。「それまで、漫画は 読んで楽しむもので、自分で描 くものとは思っていなかったん です」。道具や描き方を教えてもらい描き始めると、面白さに のめり込んだ。
描き上げた作品を新人賞に 応募すると、準入選を獲得。ま すます夢中になり、漫画家にな りたいと思うように。その夢を 実現するため、卒業後は就職 せずに実家に戻り、アルバイト をしながら漫画の投稿に励ん だ。
努力が実り、 25 歳の時「喜名 朝飛(あさと)」のペンネームで デビュー。全国発売の漫画雑 誌『月刊少年ガンガン』、続いて 『月刊ガンガンWING』での 連載を獲得した。
「連載が決まって、うれしさ よりも、血の気が引きました ね」。上京せず県内で執筆を続 けることにしたため、大慌てで アシスタントを探し、連載の体 制を整えた。
漫画雑誌の連載は過酷を極 める。喜名さんも、デビュー当 時は隔週で 30 ㌻もの原稿を仕 上げねばならず、時間に追われ る日々が始まった。
最初のうちは、経験の少な さから右往左往の繰り返し。 商業雑誌では「ネーム」と呼ば れる素案をもとに、担当編集 者と打ち合わせを重ね、ストー リーを練り上げていく。 「30㌻仕上げるのに100㌻のボツ ネームを描いたこともありま した」。締め切り前には何日も 徹夜を重ね、なんとか締め切 りに間に合っても、その夜にす ぐ担当編集者と次の回の打ち 合わせが入ることも珍しくな かったという。
県内でも活躍
全国誌での連載終了後は、 県内のメディアに活動の軸足 を移し、企業や自治体向けの 漫画を執筆している。
2006年〜11年には、週 刊レキオで『マルマル行進曲』を 連載。個性的な猫のキャラク ターたちが登場するユーモラ スな漫画だ。愛らしい絵柄は、 全国誌に連載した作品とは異 なる雰囲気だが、依頼主の要 望に応じて、ベストな絵柄を選 んでいるとのこと。さまざまな 絵柄を描き分けるのことがで きるのは、まさにプロの手腕 だ。
07年からは県内の専門学校の漫画講師を務めるほか、現在 ではキャンバスに絵の具を流し て模様を描くフルイドアクリ ルアートを制作したり、グラ フィックデザインの仕事を手掛 けたりと活動の場を広げてい るが、漫画への熱意も忘れな い。「最近はSNSなどで漫画 を発表することもできるので、 オリジナルの作品も描いてみた い」と熱意を燃やす。
将来、漫画家になりたいと 思う読者に向けてアドバイス を聞いてみると「活字の本をた くさん読んでほしい」との答 え。「今ある漫画は誰かが作っ た世界。活字の本を読んで、空 想することで、自分なりの世界 が広がります」
漫画の執筆は苦労の連続だ が「そのぶん、仕上がった時の 達成感は半端ないぐらいあり ますよ」と喜名さんは笑顔で 話してくれた。
(日平 勝也)
【ホームページ】https://yuzuka-kina.amebaownd.com/