「表紙」2022年09月29日[No.1951]号
「残したい沖縄」を映画に
豊見城市に事務所を構える海燕社は、2010年に設立した映像制作会社だ。「残し たい沖縄」をテーマに、少しずつ消え去ろうとしている県内の伝承文化を映像で記 録している。最新作『うむい獅子─仲宗根正廣の獅子づくり─』が、優れたドキュメ ンタリー映画を表彰する2022年度文化庁映画賞の優秀賞に選ばれるなど、評価も 高い。レキオ記者が、現役メンバーに映像制作にかける思いを聞いた。
もともと、別の映像制作会 社に勤めていた城間あさみさ ん、澤岻健さん、故野村岳也さ んの3人が集まりグループ活 動を開始。2010年の法人 化を経て海燕社を設立した。
海燕社の最初の活動は、1 966年、野村さんが 30 代の ときに久高島で行われていた 秘祭イザイホーに密着した記 録作品『イザイホウ』のDVD 化と上映だった。撮影の翌年、 野村さんが久高島にフィルム を持って上映に行ったが、上映 会には神人(かみんちゅ)が一人 も来なかった。「直接言われて はいないけど、見たくない、見せ たくないという思いを野村さ んは感じたみたいです」と城間 さんは語る。それから 40 年の間 『イザイホウ』は上映せずにい たが、1978年を最後にイザ イホーが行われていないなどの 点から、貴重な映像の上映に 踏み切り、映画の普及活動を 始めた。
2014年から「海燕社の 小さな映画会」と称した映画 の上映会をはじめ、今年で9年 目に至っている。
「小さな映画会はこの事務 所から始まったんですよ」と城 間さん。見ると、壁にはスクリーンがある。上映していたのは野 村監督作品『イザイホウ』と 『ふじ学徒隊』の2作品。その うち、お客さんからの要望があ り、他の制作会社の映画も上 映するように。より多くの人に 作品を見てもらいたいという 思いから、現在では県立美術 館・博物館の講堂で上映を 行っている。
撮影は丁寧に誠実に
映画の配給の他に、海燕社 は自主制作映画・受注映像の 制作も行う。依頼はほとんど なく、多くはコンペか市町村へ の企画を持ち込んだという。 「残したい沖縄」をテーマに企 画、調査をして、「誰も取材し ていないもの」もしくは「まだ 映像として記録に残っていない もの」があれば、各市町村に問 い合わせて映像記録の提案を する。もちろん予算が出ずに作 れないこともある。
城間さんが監督を務めた 『むんじゅる笠│瀬底島の笠 │』は、麦わらと竹で作る日よ けの笠「むんじゅる笠」の瀬底 島唯一の作り手を追ったドキュ メンタリー映画だ。この企画 も、自ら地元市町村に持っていったそうだが、予算的に難し いとのことで断られたという。 しかし、「これに関しては待った なしだ」と思った城間さんは独 自で撮影を決行。クラウドファ ンディングで資金を募り、最終 的に目標金額の210万円を 大幅に超えた254万100 0円もの支援金が集まった。
2022年制作の『うむい獅 子│仲宗根正廣の獅子づくり │』では、過去に豊年祭を撮影 し、つながりのあった八重瀬町 志多伯獅子舞棒術保存会から 声がかかり、文化庁の助成金で 制作することができた。
「この2年で映画を2本作っ たんですけど、自主制作映画 は野村監督の『ふじ学徒隊』か ら 10 年たつんですよ」と澤岻さ んは口を開く。
「資金面で苦しいとはいえ、 好きなことを仕事にしている 幸せな気持ちは毎日ある。ご 縁を大切にして、一本一本大切 に思っています」と城間さん。 撮影は「丁寧に誠実に」を心が けているそうだ。
映像の可能性信じて
映画の撮影以外にも、運動 会や学習発表会などの記録も しているという海燕社。コロナ 禍に入りここ数年はできてい なかったが、そういった子ども たちの成長の記録にも力を入 れている。
「私は映像を作ることが幸 せなので、映像に関することは なんでもやりたいんです。CM を作ってみたいですし、テレビ もやりたいです。一番やりたい のはドラマです。沖縄の文化を フィクションで伝えるのにも挑 戦したいなって思いますし、そ れができたらすごくいいなって 思いますね」と城間さんはにこ やかに話してくれた。
(元澤 一樹)
2022年度文化庁映画賞(文化記録映画部門)優秀賞受賞記念特別上映会
『うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-』
11月26日(土)19:00~
県立博物館・美術館 講堂(3階)
料金:1000円
問い合わせ(海燕社)
☎098-850-8485
mail@kaiensha.jp
(中)『ふじ学徒隊』
(下)『むんじゅる笠─瀬底島の笠─』