「表紙」2022年11月03日[No.1956]号
人と自然が共生する姿に感動
京都で培った近代型染の技法と、紅型に用いられる沖縄の伝統技法を併用した作品制作を続けて いる染色作家の平井真人さん(72)。現在、名護市済井出の沖縄愛楽園交流会館で開催中の個展 「表現する布染 平井真人 YUGAFU2022」では、方言で「平和で豊かな世の中」という意味の世果報 (ゆがふ)をテーマとした紅型の作品などを展示している。
神戸出身、大阪育ちの平井 真人さんは、京都精華短期大 学(現・京都精華大学)で染色 を学び、京都で染色家として 活動していた。
1973年に八重山諸島を 旅し、人と自然が共生してい ることに感動したという。本 格的に来沖したのは78年。京 都で求められる染色と、平井 さんの染色との間に差を感じ 作品づくりに行き詰まってい るところ、当時勤務していた 専門学校の閉鎖などが重なり 沖縄移住を決めた。
沖縄に住み始めた平井さん だが、仕事はすぐには見つか らず、離島であるがゆえイン フラ整備の進んでいなかった 当時の沖縄が抱える厳しさに 直面したという。
「そういう中でも沖縄の人 たちのたくましさや、豊かな 祭りの文化に引きつけられま した。高度成長期の中で失わ れていくものが沖縄には息づ いていて、心動かされました」 と平井さんは語る。その後、年 齢の近い染色家との出会いを 通じて紅型の技法を習得。京都で培った染色の技術と、紅 型の技法を取り入れた新しい 作品を発表するように。
「自分自身との葛藤、自問自 答ですよ。自分は何のために 染色をしているのかというこ とをよく考えていました」
非戦・共生をテーマに
5枚の巨大な布と一つの布 の塊を立体的に配置した「断 片(かけら)より」は、阪神淡路 大震災の衝撃から生まれた作 品だ。
「震災が起こった2カ月後 に神戸に行ったら、傾いたビ ルがそのまま残ってました。 高速道路もバーンと倒れてい たし、こんなことありえるの かと思いました」
それまでの平井さんの作品 は染色した布を額装したり、 絵画的な見せ方を主としてき たが、「断片より」はインスタ レーション(展示空間そのも のを一つの作品としたもの) として完成させた、自身の型 を破った作品だったという。
今回の展示に合わせて制作した「蔓草ノ杜 2022」も 同様のインスタレーション。 ツルのような模様が描かれた 布を何枚も組み合わせて形作 られた植物のようなオブジェ は、名護市のひんぷんガジュ マルから着想を得たと話す。
その他にも、広島・長崎・ 沖縄をテーマとした「ADAN」 や、東日本大震災からインス ピレーションを受けた「魄 haku 2011」など、非戦・共生 をテーマに染色技法で描いた 作品が多数展示されている。
祈りを込めたものづくり
個展のタイトルにもなって いる世果報(ゆがふ)につい て、平井さんは「平和で豊かな世の中とは、人が暮らすうえ での目標です」と語る。
「思いを込めたものづくり は祈りだと思う。そうすると 大事にするし、丁寧に使う。今 はすぐに経済効果とかに流れ るけれど、作品に自分の祈り を込めること。それは自分に とっても大切なものです」
今後は、これまでの染色の 経験を通して、多くの人に手 仕事の大切さを知ってほしい という平井さん。生家である かやぶき屋根の古民家「ゆが ふ舎」を活用した展覧会など も視野に入れている。
(元澤 一樹)
「表現する布染 平井真人 YUGAFU2022」
場所:沖縄愛楽園交流会館(月曜・祝日休館)
入館無料
お問い合わせ ☎0980-52-5453
ギャラリートーク「布が語るコト」
11月23日(水)14:00~
平井真人×門野里栄子(大学講師・ポジャギ作家)