「表紙」2022年12月08日[No.1961]号
県内外から生き物好きの集まる部活。校内には博物館も
大宜味村饒波に立地する県立辺土名高等学校。世界自然遺産に登録されているやんばる地域唯一 の高校、という特色を生かし、自然環境科が開設されている。その中でも、より生き物や自然環境への 理解を深めたい、という生徒たちが「サイエンス部」に所属。生物の飼育や調査、県内外での発表など に励んでいる。部を指導する顧問・東竜一郎さんと、部員たちに話を聞いた。
辺土名高校の校舎に入る と、エントランスに展示されて いる水槽群に目を奪われる。こ の一角は「辺高(へんこう)生き 物博物館」と銘打たれており、 2㍍近いオオウナギ、サンゴ礁 の魚たち、在来の淡水魚など を飼育。やんばるの鳥類や哺 乳類のはく製・標本なども展 示されている。
水槽の掃除やエサやりを 行っているのはサイエンス部の 部員たち。迫力ある展示に見 とれていると、副部長の吉本瀧 侍(ろうじ)さんが「魚の世話 は部の先輩たちから受け継ぎ ました」と声をかけてくれた。 「同じ種類の魚でも大きさに よってエサを変えているんです よ」と詳細に、いきいきとした 様子で記者に話す。作業をする 他の部員たちからも、大好き な生き物たちに囲まれなが ら、学ぶ喜びが伝わってきた。
学校の魅力を発信
現在、サイエンス部の部員は 約 40 人。普段の活動では、部員 の興味ごとに、いくつかのグ ループに分かれて活動している。「沖縄県青少年科学作品 展」(主催・沖縄電力)では入 賞の常連校となっている他、学 外の発表や自然観察会にも積 極的に参加している。
創部は2001年。環境科 (本年度から「自然環境科」に 名称変更)が開設されたのと 同じ年だった。創部からしばら くは、わずかな部員数で活動 を行っていたが、転機が訪れた のは 14 年。 現在の顧問・東竜 一郎さんが着任したことだっ た。
当時は学校が生徒数の減少 に悩んでいた時期。サイエンス 部員は少数ながらも、質の高い 研究に取り組んでいたが、学校 の魅力発信には至らなかった という。着任した年の学園祭、 校外に学校をアピールできな いか、と考えていた東さんが思 い立ったのが先述の「生き物博 物館」だった。
「一般受けするもので注目を 集めたい、という気持ちがあり ました。そこで、私個人の水槽 などを使い、生徒たちと生き 物を展示したんです。『美ら海 水族館に負けないものを!』と 意気込んでいました(笑)」
手探りで始めた博物館は好 評で、メディアでも取り上げら れた。これをきっかけに、生き 物博物館が学校の「常設展示」 になることも決定。環境科に は県内外から進学する生徒が 徐々に増えてきたという。部員 たちが多様な活動にいそしむ、 現在のサイエンス部の雰囲気 もこの頃から始まった。
自然遺産を担う力に
記者が学校を訪問した日 は、部で飼育する在来ヤギや琉 球犬の世話をする部員の他、 大宜味村内のカカオ栽培に協 力するグループが、ミーティン グで活発にアイデアを出してい た。東さんが引率し、日没後の 林道などで生き物を観察す る「今日の山」という活動も楽 しげだ。また、国立研究開発法 人 森林総合研究所などが行 う調査にも協力している(写真 参照)。
「学ぶだけでなく、知識を伝 えることも大事に活動しています。やんばるが世界自然遺 産に登録されたばかりの今だ から、私たちに発信できること がたくさんあると思っていま す」そう話してくれたのは、部 長の上原蓬(よもぎ)さん。部 員は全員生き物好き。個性的 なメンバーがそろっているが、学 んだことを後輩や地域の人た ちに伝えたい、という気持ちは 共通しているそうだ。
東さんは、そんな部員たちを 見守りながら「好きなことを 続けたり、主体的に研究でき るように成長してほしいです」 と話す。
サイエンス部からは、卒業後 も研究者や自然に関する仕事 を志す学生が少なくない。世界 自然遺産の地域を担う若い力 が、今日ものびのびと育まれて いる。
(津波 典泰)
辺土名高等学校
大宜味村饒波2015
☎0980‐44‐3103