「表紙」2023年03月30日[No.1977]号
大人に文学の面白さを伝えたい
1995年に発足した沖縄可否の会は「人間丸ごと個性」をテーマに、故・三上左京さんの 指導の下、県内で舞台朗読を行ってきた団体だ。舞台朗読とは、小説やエッセー、詩を舞台 上で暗唱する朗読のスタイルのこと。2020年に結成25周年を迎えた沖縄可否の会は、同年 12月からジュンク堂書店 那覇店で「沖縄可否の会PRESENTS 本の時間~大人のための朗読 会~」を定期的に開催している。その会場を訪ね、代表の宮城さつきさんに話を聞いた。
発足のきっかけは1995 年、元俳優の三上左京さん率 いる「東京可否の会」の朗読公 演。舞台朗読に感動した沖縄 の人たちから寄せられた「こう いう朗読の学びの会が沖縄に もあったらいいな」という意見 に応えるかたちで、沖縄可否の 会は発足したという。それ以 来、三上さんは毎月沖縄に来 て直接朗読の指導をすること になった。可否の会の「可否」は コーヒーの意味。コーヒーを飲 みながら文学に親しんでもら えたら、という思いが込められ ている。
三上さんの指導は、あくまで その読み手の主観を聞いて、最 後にアドバイスをするというも の。そのため、淡々と読み上げ る人、芝居に寄せた人など、そ れぞれに個性が生まれ、十人十 色の朗読になる。
現在所属しているのは、年齢 も職業もさまざまな 18 人の女 性。「お母さんや奥さんではな く、その人個人として輝いてほ しい」という三上さんの思いの 下、女性がイキイキするための 一つの手段として、「朗読を通 して彩りのある人生を」をテー マの一つとして掲げている。
沖縄可否の会は、県内の学 校や図書館、カフェなどで地道 に朗読会を開催し、活動の場 を広げていった。2012年に は目標であった本島離島全 41 市 町 村 で の 舞 台 朗 読 を 実 現 。 21 年9月 30 日までに、237 会場、492回の朗読会を開催 した。
困難を乗り越えて
20 年に 25 周年を迎えた沖縄 可否の会。 25 周年の舞台を予 定していたところ、新型コロナ ウイルスの流行で公演を断念。 また、同年4月に三上さんが急 逝(享年 78 )する。三上さんは、 それまでの 25 年間欠かさず毎 月沖縄に通っていたという。 度重なる不幸にも負けず、沖 縄可否の会は同年末からジュ ンク堂書店 那覇店で「沖縄可 否の会PRESENTS 本の時間 〜大人のための朗読会〜」を 隔月でスタートさせた。
「師を失い今は個々人での稽 古が主ですが、朗読会の開催が 近づくと、みんなで集まって舞 台稽古をしたりしています」
一つの作品を暗記する舞台 朗読は覚えるのに半年〜1年 ほどかかるため、おのずと年間 で朗読できる量が限られてく るという。
「日々の生活に追われてなか なか本を読めない人たちも、会 社帰りにふらっと立ち寄って 『あ、無料だしちょっと聞いてい こうかな』って感じで聞いてく れます。そこで『可否の会って 面白いな』って思ってもらえた らいいし、自分たちにとっても 学びになります」と宮城さんは 語る。
語りの世界楽しんで
3月 16 日にジュンク堂書店 那覇店で行われた「沖縄可否の 会PRESENTS 第 10 回 本の時 間〜大人のための朗読会〜」 で、夏目漱石作「手紙」を朗読 した青山喜佐子さんと、辻仁 成作「雪のかまくら」を朗読し た真栄里勝枝さんに舞台朗読 の魅力を聞いた。
「同じ作品でも朗読する人 によって個性が生まれる。可否 の会では『読む』というより『語 る』という感じを大切にしてい 大人に文学の面白さを伝えたい る。声で伝えるっていうのはい いなあ、と思う」(青山さん)
「語るっていうことは、その 作品の世界を自分のものにし て、自分を通して語る。そこが 私にとっては魅力的。何度も何 度も読んで自分の体を、声を、 語りを通して、作品世界を表 現しながら自分自身も表現す る。まだ未熟ですけどね」(真 栄里さん)
活字離れも進むなか、朗読 を通して想像することの楽し さを伝える沖縄可否の会。
「三上先生の教えであったよ うに、一人一人が輝いて作品に 向き合いながら、それを見ても らえる場所を提供し続けてい きたいな、と思います」と宮城 さんは笑顔で話した。
(元澤 一樹)
朗読・夢舞台 其の十七
悪女について
日時=4月8日(土)15:30~
会場=沖縄市民小劇場 あしびなー
料金=前売り2500円 当日3000円
☎090-8912-54983
写真・村山 望