「表紙」2023年04月13日[No.1979]号
飼育することで生態明らかに。一般向けの体験プログラムも開催
名護市嘉陽で沖縄の自然に関する学びを提供している「美ら島自然学校」(運営:一般財団法人沖 縄美ら島財団)。施設の特色の一つが調査研究を目的としたウミガメの子どもの飼育だ。一般の利用 者向けに、ウミガメを間近で見ることのできる体験プログラムも用意している。ウミガメの行動や成 長を細やかに観察・記録している職員に飼育の意義について聞いた。
2009年に閉校した嘉陽 小学校の校舎を利用して運営 されている美ら島自然学校。敷 地内の水槽ではアカウミガメ、 アオウミガメ、タイマイの3種 のウミガメが飼育されている。 取材を行った4月初旬、施設 では一般向けにウミガメの「甲 らみがき」体験を開催。数組の 親子連れが参加していた。
ウミガメを間近に
参加者が甲らみがきを任さ れるのは、生後約1年の仔ガメ たち。4、5歳の子どもだと、か ろうじて片手で持てる大きさ だ。泳いでいた容器から持ち上 げると、前足をバタバタと動か し、水しぶきを上げるので、子 どもたちはおっかなびっくりし た様子だ。
「前あしの付け根に手を添え て持つと大人しくなります。優 しく甲らをみがいてあげてね」
そう説明するのは飼育を担 当する西口峻平さん。ブラシを 使い、甲らを掃除していくと、 種類ごとの特徴に気付くこと ができる。西口さんは「(他2種と比べて)頭でっかちなのがア カウミガメ」「甲らがつるつるし ているのはアオウミガメ」「タイ マイは口先が鳥のようにとがっ ています」と解説を加える。最 初は恐る恐る接した子ども も、作業を終える頃には仔ガメ に慣れてくる。大人も普段目 にする機会のない生き物に興 味津々だ。
ウミガメは、飼育下では甲ら に藻が生えやすくなるという。 そのため、甲らみがきは定期的 に必要な作業だ。美ら島自然 学校では、飼育過程の一部を来 場者に体験してもらうことで、 観察や学びの機会を提供して いる。
地域の歴史引き継ぐ
美ら島自然学校で飼育され ている仔ガメは、本部町の沖縄 美ら海水族館で繁殖したもの だ。1年間飼育し、成長させた 後で放流している。海洋博公園 ウミガメ館でもあわせて放流 を行うそうだ。放流の際には、 仔ガメの回遊ルートの調査を 目的に、前あしに金属のタグを取り付け、個体を識別できる ようにしている。
調査を重ねることで、アカウ ミガメに関しては、その回遊 ルートの広さが明らかになり つつある。過去には太平洋を横 断しアメリカに渡った個体も 見つかった。一方、アオウミガメ とタイマイに関しては、再捕獲 された例がまだ少ない。今後も 調査を継続することで、生態 解明につなげたいそうだ。
現在、仔ガメの飼育には、地 域にある緑風学園(名護市立 久志小学校・久志中学校)の児 童たちも参加。小学3年生を 対象としたウミガメの飼育実 習は、地域環境への興味関心の 向上を目的に開講されている。
旧・嘉陽小学校では1991年〜2009年まで、隣接す る海岸で産卵するウミガメに ついての学習と、保護や飼育が 盛んに行われていた。小学校の 閉校(緑風学園への統合)に際 しても、地域の人々から、活動 を続けてほしいと要望があがっ たという。「当施設でのウミガ メ飼育は、地域の学校の歴史 を引き継いだ部分もあると 思っています」と西口さんは 教えてくれた。
美ら島自然学校では、5月 の連休にウミガメへのエサやり 体験プログラムを企画してい る。貴重なウミガメとの時間 は、思い出だけでなく、学びの きっかけも作ってくれるだろ う。ぜひ足を運んでみてほしい。
(津波 典泰)
美ら島自然学校
名護市嘉陽41
☎0980-55-9045
〈イベント情報〉
「ウミガメ飼育しちょんどー!
2022年生まれの仔ガメのえさやりをしてみよう!」
期間:4月29日(土)~5月7日(日)※5月1日(月)は休校日
時間:①11:00~11:30 ②14:30~15:00
料金:1回500円
※その他詳細は美ら島自然学校HPをご確認下さい。
写真・村山 望