「表紙」2023年05月04日[No.1982]号
地域のくらしと自然に出合う。
“ぶりでぃ”で作っていく博物館
名護博物館の新館が名護市大中にオープンした。名護・やんばるの自然と漁業、農業、製塩など の伝統産業、くらしと催事に関わる資料を間近に見ることができる。屋外の展示と体験学習の機 能も強化された。新館準備に携わった職員と、博物館友の会のメンバーを取材、展示の魅力や旧 館から大切に引き継いだことについて話を聞いた。
「名護・やんばるのくらしと 自然」をテーマにした展示、活 動を行う名護博物館。同市東 江で旧館が開館したのは19 84年。仕切りやケースを設 けない、オープン型の常設展示 室が特色となっており、県内外 から来館者が訪れていた。
新館建設の構想・計画は2 008年ごろからスタート。関 係者らは用地や設計の検討を 十分に重ねてきた。展示物の調 整は今月2日の開館直前にま で及んだという。旧館との大き な違いは、敷地・建物ともにス ケールアップしている点だ。屋 外には中庭、古民家、散策道な どを備え、やんばるらしい動植 物にも出合える。やんばる全 体を一つの博物館に見立て、来 場者が各地へ出かけて学ぶこ とを推奨する「フィールド ミュージアム」の考え方も新た に導入している。
小さなこだわり各所に
新館も従来のオープン型の 常設展示を継承。展示制作では、旧館からの資料に現代的 な手法を加えることで、「新し いけど古い」展示空間を目指し たそうだ。3人の職員に「ここ に注目してほしい」というポイ ントを尋ねてみた。
「思い入れがあるのはザトウ クジラです」と話すのは学芸 員・村田尚史さん。常設展示室 に入るとすぐに目に入る2体 のクジラの骨格標本は、迫力が あり博物館の顔と言っていい。 特にザトウクジラの骨格の入 手には、国立科学博物館や千 葉県館山市など、多くの関係 機関、人々の協力があったとい う。旧館からの移動やワイヤー での吊り下げにも苦戦し、いく つも逸話がある資料だ。
クジラの骨格標本の向かい にある写真パネル群、その名 も「多様性の壁」を挙げたのは 職員の田仲康嗣さん。職員た ちが撮った名護の風物の写真 が並ぶパネル。最大の特徴は、 写真の入れ替えが容易にでき る、という点だ。展示内容を固 定せず「 10 年、 20 年と手を入れ 続けられるように」との狙いが あるそうだ。
エントランスに設置され た「年表」をアピールするのは、 編集作業を担当した学芸員・ 山田沙紀さん。先史時代から 始まる約4万年分の歴史を世 界史的な出来事、沖縄の出来 事、名護・やんばるの出来事の 3つに分けて記述している。「小 さなトピックこそ見てほしい。 おもしろさやこだわりを込め ています」と教えてくれた。
„ぶりでぃ‶の理念
中庭や古民家展示では、植 物を使った民具や玩具作りを している人々に出会うことが ある。「名護博物館友の会」の メンバーだ。年齢や経歴はさま ざま。地域の自然や文化に関 心を持った人々が集い、ものづ くり、自然観察などを行ってい る。会員それぞれのペースを尊 重し、好きな時に参加できる 仕組みだが、博物館のイベント や展示作業を熱心に手伝う人 も多い。名護博物館の運営に なくてはならない存在だ。 地域のくらしと自然に出合う。
“ぶりでぃ”で作っていく博物館 友の会活動は、同館の理念 である「ぶりでぃ」(方言で“群 れ手„の意)に基づいている。市 民活動の場として、開かれた博 物館を目指し、「みんなの手で 作り上げる」ことを開館以来 大事にしてきた。施設内をじっ くりと回れば、資料や備品に 市民らの協力の痕跡を見つけ ることができるだろう。
「身近な場所にすばらしいも のがいっぱいある。そういうこ とが伝えられる場所になって います」
取材の終盤、村田さんが同 館の魅力をストレートに語って くれた。来年は開館 40 周年。地 域の情景と、自然や文化への愛 着がここから次の世代へと紡 がれていく。
(津波 典泰)
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名護博物館
名護市大中4-20-50
☎0980-54-8875
開館時間=10時~18時
休館日=月曜、その他不定休あり
Instagram @nago_museum
写真・村山 望