「表紙」2023年08月03日[No.1995]号
水田を学びの場に。多世代が関わる稲作の新しいかたち
名護市の東海岸側に位置する嘉陽区。集落背後には水田地帯が広がり、かつては米どころとして知 られていた。住民らには「後のターブックヮー」(後ろの田んぼ)などと呼ばれ今も身近な存在だ。地域 の歴史や文化とも密接なつながりのある稲作を残そうと、住民、学校、関係機関が一体となった取り組 みが2018年から続いている。稲刈りと脱穀作業の現場に立ち会い、関係者たちに話を聞いた。
先月7日、真夏の日差しの 下、名護市立緑風学園の5年 生 21 人と関係者たちが田んぼ に集まった。この日は、生徒た ちが4年生の3学期(今年3 月)に植えたヒトメボレの収穫 日。水の引いた田んぼでは、黄 金色の穂をつけた稲が頭をた れ、風になびいていた。
今回の収穫方法は昔ながら の手刈り。水田の管理をする嘉 陽区の翁長信之さんから鎌の 使い方や稲のまとめ方について レクチャーを受けた後、生徒た ちは作業を始めた。同区青年 会のメンバーも会場設営や安 全面のサポートで全面的に協 力した。慣れない鎌での作業に 苦戦した生徒もいたが、ザクザ クと稲を刈り取る感覚は、楽 しいものだったようだ。作業を 終えても「もっとやりたい!」 と話す生徒がいた。
一粒の大切さ伝える
稲刈りの後は、脱穀・選別作 業も行った。今回は名護博物 館の協力で「トーミ(唐箕、とう み)」(写真参照)や「ミージョーキ (ざる)」といった、動力を用い ない道具を使用。日本復帰前 後まで、県内で行われた方法 を学んだ。古い道具の精度は高 くないので、稲の実とその他の 選別は完璧ではない。最後は生 徒たちが手作業で、一粒一粒を 選別した。単調で根気のいる作 業だが、この工程を通して食べ 物の大切さや、昔の人の暮らし を伝えたい、と関係者らは考え ている。
「(稲作は)楽しい作業だけ を提供する„いいとこ取り„ の体験ではありません。でも、 苦労するおかげで、生徒たちの 印象に残り続けるようです」 取り組みを支援する、NP O法人久志地域観光交流協会 の坪松美紗さんはそう話し た。
今回収穫した米は、生徒た ちが2学期に行う宿泊学習で 食する予定だ。稲わらも無駄 にせず、嘉陽区の伝統行事であ る「綱引き」用の縄に加工す る。「稲作について、自分たちで また考えてみて」。一日がかりの 学習を終えた生徒たちに、翁 長さんは語りかけた。
続け方を模索
「稲作は子どもたちの学習 のためでもあり、地域のためで もあります」
そう話すのは、同法人の常 務理事・江利川法孝さん。稲作 は、緑風学園が導入する「コ ミュニティ・スクール(CS)」の 一環だと教えてくれた。
CSとは文部科学省が推奨 する制度。学校運営に保護者 や地域住民の声を生かし、特 色ある学校づくりを目指すも のだ。緑風学園では、子どもた ちの学習機会と、人口減少に悩 む名護市東海岸地域の課題、両 方にアプローチする手段と なっている。
今回の作業には、生徒たちの 保護者や同区にある美ら島自 然学校の職員も積極的に参加 した。「地域の良さを、大人た ちにも知ってもらうきっかけに しています」。そう話す坪松さ ん。稲作は、保護者の世代に とっても新鮮に映ることが少 なくない。取り組みを続けるこ とで、東海岸地域に移住する 人や、地域に継続的に関わ る「関係人口」が増えてほしい と展望を明かした。
地域の伝統である稲作は、 新しい担い手を得て、そのあり 方を模索しながら、未来につな がっていく。
(津波 典泰)
〈稲作に関する問い合わせ〉
NPO法人久志地域観光交流協会
名護市大浦465-7(わんさか大浦パーク内)
☎ 090-9785-7832
写真・村山 望