「表紙」2023年10月05日[No.2004]号
三線工55年目の挑戦
うるま市赤道で又吉三味線店を営む三線工・又吉章盛(あきもり)さん(82)。三線の基 本七型を全て作ることのできる数少ない三線工であり、昨年、三線工として初となる「現代 の名工」を受賞した。又吉さんと、三線製作の弟子であり「現代の名工」推薦者として尽力 した松田茂(しげる)さんに話を聞いた。
1941年、うるま市 (旧具志川市)出身の又吉 さん。物心ついたときから 三線に興味があり、近所 の家が三線の名器を手に 入れたと知ると、単身訪 ねて見せてもらうような 子どもだったという。蛇皮 の代わりにパラシュートを 使うなど工夫して、カンカ ラ三線を作っているうちに 腕前は上達し、中学生の 頃には一人で自作するよ うになる。
職人の道に飛び込んだ のは 20 代後半。名工・喜屋 武盛朝氏の一番弟子であ る稲福具永氏に弟子入 り。技術の習得に励んだ。 その後、稲福氏の勧めで 三線の名工が集まる那覇 市開南に拠点を移し、各 型の名工の元で修行。9 年をかけ、真壁型(マカ ビ)、与那型(ユナー)など 三線の基本七型を習得し た。
三線への思い
「三線は工芸美も大事 だけど、なにより音が命」 と話す又吉さん。又吉さ んの三線には「ユイン(音 韻)」と呼ばれる三線特有 のエコーがかかる。それを 可能にしたのが、棹と太 鼓(胴)の独自技法。太鼓 の密着部である「爪裏」の 隙間をなくし、音の伝達 力を上げている。太鼓の張 りには、沖縄の三線作り に古くから使われている 天然デンプン糊を使用す ることで、蛇皮の強い張り を実現。音をより美しく 響かせる。
昨年、三線工としての 功績が国に認められ「現 代の名工」を受賞した。そ の背景には、弟子であり 「現代の名工」推薦者とし て尽力した松田茂さんの 思いがあった。
「沖縄の伝統、組踊、古 典音楽、舞踊、民謡は三線 によって支えられている。 しかし、琉球芸能や踊り、 演奏者と比べると三線職 人は社会的評価が高くな い。『現代の名工』への推薦 は、それに対するチャレン ジでした」
松田さんは、沖縄の三 線の歴史や、又吉さんの 三線製造の可視化などに ついて調査・資料を作成 し、およそ2年もの時間 をかけ厚生労働省に申請 した。都道府県知事や全 国的な事業主団体ではな く、一般推薦者の推薦によ る受賞は異例だという。
「先生の実績があってこ そですが、三線職人が沖 縄の芸能を支えていると 国が認めてくれた。三線 職人たちは一つの希望と誇 りを感じたと思います」。
汗と涙の結晶
伝統を守りながら、新 たな技術や道具を取り入 れ、より良い音を追求し 続ける又吉さん。「現代の 名工」受賞について「 55 年 間続けてきたことが国に 認められた。汗と涙の結 晶です」と目を細める。
現在は「4代目」の育成 を目標に掲げ、週末には 子どもたちを対象とし た「とんとんみー三線クラ ブ」や「三線製作後継者育 成塾」を開講。又吉さんの 周りには、常に三線の音 色が響いている。
(元澤 一樹)
又吉三味線店
うるま市赤道4-2番地
☎090-9475-7634
写真・村山 望