「表紙」2023年10月26日[No.2007]号
地域限定だからこそ選ばれる。
小さな島豆腐店の魅力
かつては集落に数件あることも珍しくなかった、沖縄ならではの島豆 腐店。時代の変化とともに小規模な製造者は減少の一途をたどるが、地 域に根ざした形態で、豆腐作りを続ける製造者もいる。金武町屋嘉の 「山田とうふ店」もその一つ。ほっとするような優しい味わいはどのように 作られているのだろう。製造現場を訪れてみた。
山田とうふ店の商品が 買えるのは、金武町内を 中心に、宜野座村からう るま市勝連辺りまで。工 場から近いエリアでは、昔 ながらのあちこーこー (熱々)で販売される豆腐 が人気だ。
現在代表を務める山田 政浩さんは2代目。両親 の政哲さん、スエ子さんが 60 年以上前に創業した。 工場の敷地に入ると、生 しぼりされた豆乳の甘い 香りが漂ってきた。
「うちの豆腐の特徴は 豆の風味があること。食 感はプリンみたいでなめ らか」
そう教えてくれたのは、 政浩さんの妻・孝子さん。 島豆腐やゆし豆腐は、そ れ自体は主張せず、繊細 な食感や風味を楽しむ食 材。大豆の質や塩、凝固剤 の分量など、ちょっとした 要素に気を使っているそ うだ。「煮付けに使っても 違いがわかります」と次男 の裕太郎さんも話す。
最近では、那覇や名護 から工場まで豆腐を買い に来る人もいる。そんな ファンを獲得できたのは、 政浩さんたちが品質を安 定させることに長年注力 してきた成果だ。
あちこーこーを未来に
山田とうふ店の朝はと にかく早い。
政浩さんの仕事開始は なんと深夜1時(毎日 19 時ごろ就寝、0時半起床 している)。工場は1日3 回転。5人の従業員で、交 代で休みを取りながら、 製造だけでなく配達もこ なす。朝一番の製造と配達 は、食堂や弁当店からの 注文もあるため特に忙し いのだとか。
2021年、国際的な 衛生管理基準、HACC P(ハサップ)が県内の豆腐 製造業者にも義務付けら れた。あちこーこーの豆腐 販売には温度や時間など の規制が設けられる。
従来の製造・販売方法 を続けられなくなったこ とで、同業者が事業をた たんだり、管理が容易な パック豆腐の製造に集中 する中、山田とうふ店は、 温度を保つための機材を 新たに導入。配達の回数 も増やした。
厳しい条件だったが、自 慢の商品を未来に残した いと決断した。
一推しの商品は
政浩さんが「どこにも 負けません」と照れなが らもおすすめするのは「山 田のカップ入り湯しどう ふ」。絶妙な固まり具合で 販売されるゆし豆腐だ。 島豆腐などを製造する工 程で少量だけ作られ、あ ちこーこーが配達可能な 地域のみで販売される。手 に入れることができたら、 まずは何も加えず、鍋で 温めて食べてほしい。なめ らかさと優しく濃厚な大 豆の風味が楽しめる。
忙しい作業の合間、裕 太郎さんが「大きく手を 広げず、地道に豆腐作り を続けることが目標」と 語った。豆腐の味を守り、 これからも地域の人をよ ろこばせたいという。
声の届くような、近い場 所に向けて作ることは、 食品の背景を重視する現 代的なニーズに応えること にもつながる。山田とうふ 店が大切にしているのは、 当たり前のものがおいし い、という日々の幸せだっ た。
(津波 典泰)
山田とうふ店
金武町屋嘉2316
☎098-965-1960
取材協力:前田そば、Proots
写真・村山 望