「表紙」2023年11月09日[No.2009]号
民具の本物の価値を伝える
月桃やトウヅルモドキの籠、焼き物、琉球ガラスなど、古くから暮らしの中で使われてきた民具。古川 順子さんは、時代とともに消えてゆく暮らしの道具の魅力を知ってもらおうと民具の専門店「りゅう」を 2014年にオープンした。沖縄を中心に世界の手仕事を紹介する他、琉装「ドゥジン(胴衣)」の展示 販売や料理会などのイベントや本格的な体験ができるワークショップも展開している。
読谷村古堅の高台にあ る「りゅう」。オーナーの古 川順子さんがセレクトし た沖縄の民具や工芸品、 雑貨などが店内に並ぶ。 展示会やイベント、本格的 なワークショップなど、多 岐にわたる活動を通して 手仕事の魅力や価値を伝 えている。
りゅうが展開するワー クショップはそのユニークさ が支持されている。工程の ほとんどを占める下準備 から体験するため、「どれ だけの時間と手間がか かっているのかが分かるん です」。これまで石獅子、 トウヅルモドキや月桃の 籠、アダン葉の草履や帽 子、クバの葉の民具作りな どのワークショップを企画 してきた。
ユニークなワークショップ を行うのは、体験型観光 施設で働いていた時に抱い た「モヤッとした」感情が 原点だ。「短時間で最後の 工程だけを体験した人た ちの『簡単だよね』という 声を聞いて。『違うじゃ ん』っていうのを知らしめ たかったんです」
苦労も味わう体験
トウヅルモドキの籠の ワークショップは、ツルをナ タでただひたすら裂くと いう1日がかりの下準備 から取り掛かる。朝から 晩までの作業を数日かけ て作るものもある。「『私の 作ったものは不細工だけ どかわいい』と大切に思っ てもらったり、自分で直せ るようになったりします。 本当の価値を知り、作り 手に敬意を払うための ワークショップなんです」。 参加者同士で集まって植 物を見つけに行ったり、 講師の所に個人的に習 いに行ったりする人もい る。「そういうつなぐ場に なれば」と期待している。
時には作り手の営業役 も買って出る古川さん。陶 器市などで、「2つ買うか ら1000円負けて」と 言われて、苦労に見合わ ない価格で妥協してしま う作家や話すのが苦手な 人たちを見てきた。「そん な時、おしゃべりおばさん が登場して、こういう苦労 があってやっとできたんで すと説明すると納得して 買ってくれる」と話す。
伝統的な手仕事は「絶 滅危惧種」だと危機感を 抱いている。「なるべく作り 手が暮らせるような値段 付けをしています。先祖た ちの知恵を自分たちの手 で再現して、誇りをもって 臨むには、食べていけるよ うにしないと」と力を込め る。後進が育た ず、作り手がいな くなれば、途絶え てしまう。「何と か1分でも長く 伝えたいし、つな げたい」と言う。
よそ者だから分かる魅力
東京出身の古川さん。 移住した当初は、名字を 言うと県外出身と線引き されるような感覚があっ た。今はその立場を武器 だと感じる。「よそ者だか らこそ良さが分かる。地 元の人たちがつないできた ものに光を当てるのが役 目だと思っています」
今後はアイヌと沖縄をつ なげるような企画や食に 関わる冊子の構想を立て ている。民具を通してさら なるつながりが広がってい きそうだ。
(坂本永通子)
りゅう
読谷村古堅191
☎098-989-4643
営業時間:9:00~18:00
定休日:月~水曜
https://www.instagram.com/ryuyomitan2014/
写真・村山 望