「表紙」2024年01月04日[No.2017]号
未経験から栽培を軌道に乗せる
北中城村内で、IT技術を活用したキクラゲ栽培が行われていることをご存じだろうか。栽培を手 掛ける旭イノベーション株式会社は、ウェブマーケティング事業からスタートしたベンチャー企業。代表 取締役の仲眞秀哉さんは、農業未経験の状態からキクラゲ栽培に挑み、専務取締役の島袋洋平さ んと2人で、ハウス内の温度・湿度を調整する栽培管理システムを独自に開発。栽培を軌道に乗せ た。「キクラゲ栽培は、沖縄の新たな産業になりうる」と意気込む。
ハウスのある場所は、北中 城村比嘉。木々が豊かに生い 茂り、豊かな水が流れる谷間 だ。ここにはもともとキクラ ゲが自生しており、昔、地元 では食用にされていたそうだ。
「キクラゲは、沖縄での栽 培に適したキノコなんです」 と仲眞さん。 25 〜 26 度の温 度、 80 〜 90 ㌫の湿度でよく育 ち、沖縄では冬でも栽培でき る強みがあるという。
2021年、もともとラン の栽培をしていた4千平方㍍ のハウスを買い取り、約 10 カ 月かけて補修。農業はまった くの未経験からキクラゲ栽培 をスタートさせ、 23 年には台 風の被害も受けたが約5㌧を 収穫した。
IT技術を駆使
「キクラゲに興味を持った きっかけは、当時2歳だった 息子の便秘」。食物繊維が豊 富なキクラゲを食べさせる と、すぐに解消し、感銘を受 けた。興味を持って調べるう ちに、キクラゲには大量のビ タミンDも含まれていること も知った。ビタミンDは、カル シウムの吸収を高め、骨を強 化する栄養素として活用され てきたが、近年は免疫力の調 整機能も注目されている。
仲眞さんは、筑波大学で野 外教育を学んだ後カナダに留 学、現地で教育関係の仕事に 携わったという経歴を持つ。 帰国後、 18 年に起業。ウェブマ ーケティングから事業を始め たが、将来的には農業や障が い者就労支援、体験学習を絡 めた事業を展開したいと考え ており、キクラゲの栽培は、 その第一歩となった。
「最初のうちは、失敗も多 かった」と栽培の苦労を振り 返る仲眞さん。ハウスで何百 種もの栽培パターンを試しつ つ、家族が寝静まった後、勉 強に励んだ。海外生活で培っ た英語力を生かして英語文 献の情報も調べ上げ、栽培法 を確立していった。
専務取締役の島袋洋平さ んと2人で、IT技術を使っ たハウス内の温度と湿度を自 動で調整する独自システムの 開発にも取り組んだ。「現場 をよく知っている人間でなけ れば開発はうまくいかないと 思います」。例えば湿度には 風向きも影響し、それを計算 に入れたシステムの構築が必 要だったが、肌感覚で現場をよ く知る人間でなければ成功し なかっただろう、と振り返る。
独自の栽培法も確立
キクラゲを加工したゼリー やクッキー、粉末などの商品 開発・販売にも意欲を燃や す。昨年1月には「きくらげ 小町」としてブランド化。今 後、ネット通販で全国への販 路拡大を目指している。
キクラゲを粉末化すること でビタミンDをより効果的に 摂取できるが、仲眞さんがこ だわったのが、ビタミンDの含 有量。EM菌を活用するなど 試行錯誤を重ね、無添加で ありながらビタミンDを豊富 に含むキクラゲの栽培法を確 立した。粉末が水に溶けにく いのが課題だったが、国内外 の文献を研究した末、独自の 製法も考案。水に溶けやすい 粉末が今年1月に発売される。
「私の妻の祖父である仲本 正秀おじぃは、台湾から沖縄 に病害に強い菊を持ち帰り、 『北中1号』として菊産業を 普及させた人物。正秀おじぃ にならい、キクラゲの新品種 を登録して『北中2号』と名 付けるのが夢。キクラゲ栽培 を沖縄の新しい産業に育て、 障がい者の就労支援や収穫体 験の提供にもつなげていきた い」と目を輝かせる。キクラ ゲ栽培の未来に期待したい。
(日平 勝也)
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写真・村山 望