「表紙」2024年12月12日[No.2066]号
人形作家歴50年人形で紡ぐ琉球絵巻
沖縄市城前町、越来グスク跡からほど近い場所にある「小さな人形館 百十末(ももとすえ)」。代表であり人形作家の座間味末子さんは軽量粘土を用いた、西洋、日本、琉球創作人形の制作を手掛ける。今年、人形作家歴50 年を迎えた座間味さんにこれまでの歩みを語ってもらった。
座間味さんは1948年、7人きょうだいの末っ子として本部町瀬底島で生まれた。生まれる一カ月前に伊江島で起きた米軍弾薬輸送船爆発事故で父親を亡くしており、家計は苦しかった。後に仕事を求め一家で沖縄市に移住。家計を助けるためアルバイトに明け暮れる中「手に職をつけよう」と、27歳のときに県婦人就業補助センターの琉球人形教室の門をたたいた。
当時の琉球人形の多くは、本土で大量生産されたマスク(顔)や手などのパーツを取り寄せ、琉装をさせて作っていたという。しかし、人形の魅力に引かれていた座間味さんは「それでは本当の琉球人形じゃない。顔も体も手も、全部自分で作ってみようと思ったんです」と振り返る。
福岡で博多人形の面相(顔)描きの技術を学んだ後、東京で人形教授免許を取得。「思えば、これが私の琉球人形の原点です」と語る。
長く西洋人形を作っていた座間味さんだったが、2000年頃から「昔の沖縄の歴史・文化・風習を人形に表したい」という思いが湧き、琉球創作人形を手掛け始める。
細部まで本物にこだわる
座間味さんは、人形の造形から着色、面相に至るまで全て手作業で行う。使用しているのは手につきにくく、描き直しが利く「軽量樹脂粘土(ハーティク レイ)」。破損しても修正できるのも利点の一つだ。
「細部まで本物にこだわりたい」という思いから、人形が着用している紅型衣装は模様を手描きした本物の紅型を採用。座間味さん自ら手縫いで仕立てている。人形の中には、実際に人が着用していた古い絣(かすり)や100年以上前のバサー着物(綿麻混)を、人形サイズに仕立て直したものもあるという。人形を美しく見せるために着付けの免許も取得したという徹底ぶりだ。
特にこだわっているのは人形の顔。「人と同じで顔のパーツや表情、色の濃さなど、同じものは一つもありません。ちゅらかーぎー(美人)もやなかー ぎー(不細工)もいます」。そのため、座間味さんの人形を見た人の中には「亡くなった家族や親戚に似てる」と涙を流す人もいるという。
人形の顔には、人が使うものと同じ化粧品を使用。人形の髪やヒゲは、座間味さんや夫・力(つとむ)さんの毛髪やヒゲを混ぜているものもあり、生き生きとした表情が伝わってくる。
沖縄を世界に広く発信
08年に開催された「ブラジル・アルゼンチン移住100周年記念式典」には、100体もの琉球創作人形を展示し、世界のうちなーんちゅを出迎えた。現在でも積極的に県外や国外で琉球創作人形の展示・寄贈を行っている。
「世界中の人形を見ましたが、その土地の文化を凝縮したものが人形なんです。物言わぬけれども、物言わぬ以上に人に語りかける力がある。そんな人形作りを私も目指しています」
今後は、これまで作った人形たちを展示する大きな人形館がほしいと話す座間味さん。「後世に琉球の文化・風習を残したい」と思いを語った。
座間味さんは琉球創作人形に思いを託して、沖縄の文化・歴史を世界に、未来に発信し続けている。
(元澤 一樹)
小さな人形館 百十末
沖縄市城前町5-8
☎090-3794-8714(座間味末子)
※入場は要予約制
写真・村山 望