「島ネタCHOSA班」2013年10月03日[No.1487]号
先日、友人との会話で、「ヤシガニは細かくいうとカニの仲間ではない!? という話題になりました。友人は、ヤシガニはヤドカリの一種だというのですが、納得がいきません。調べてください!
(宜野湾市 生きもの係さん)
ヤシガニはヤドカリ!?
アダンの実も切り落とす強力なハサミを持っているというイメージから、調査員もこれまでヤシガニはカニの仲間と信じて疑ったことはありませんでした。ヤドカリとはいったい!?
貝殻背負って成長
というわけで、早速、那覇市おもろまちの県立博物館へ。常設展のコーナーで、ヤシガニを探します。
すると、そこには標本とともに、驚きの写真が展示されていました。なんと、ヤシガニが貝殻を背負っているのです!
謎を解明するため、博物館の主任学芸員、山崎仁也さんにお話を聞きました。
山崎さん、ヤシガニは本当にヤドカリの仲間なんですか?
「はい。実は、ヤシガニは、日本では主に沖縄と小笠原諸島にしか見られない『オカヤドカリ』というヤドカリの仲間なんです」
やっぱりヤドカリ!? でも、普段私たちが見るヤシガニは、貝殻をかぶってないですよね?
「ご存じのように、ヤドカリの仲間は、大きくなるにつれ、貝殻をつけかえて育ちます。
ヤシガニの産卵は海で行われ、卵からかえったヤシガニは、一カ月ほど海で浮遊しています。それから陸にあがってくるのですが、その時の大きさはわずかミリ単位。それから自分にあった貝殻を探し、少しずつ貝殻の大きさを変えて育っていきます」
なるほど。でも、大きくなると貝殻のサイズを見つけるのが大変そうですね。
「ヤシガニが貝殻を背負っているのは、体長が1〜1.5㎝くらいの時だけ。それ以降は、貝殻を捨ててしまいます。
貝殻つきのヤシガニを見つけるのはとても難しく、私も調査のために、ヤシガニがたくさんいる場所に何十回となく足を運びましたが、発見したのは一度だけです」
乱獲で絶滅の危機
聞けば聞くほど、ミステリアスなヤシガニの生態。陸にあがったヤシガニは、産卵時をのぞいては海には入らず陸地で生活。寿命は少なくとも20年以上、一説によれば50年も生きるといわれていますが、実際にはまだ誰も正確な寿命を確認したことがないのだそうです。
しかし、こういったヤシガニの一生が分かったのは、最近のことだと山崎さんは言います。
「ヤシガニはもともとは繁殖力の強い生きものですが、沖縄のヤシガニは観光客向けの需要もあり、乱獲によって数がかなり減ってきています。沖縄本島では、一時期、絶滅したとも言われていました。危機的状況になってから、これは大変ということで詳しく調べられるようになり、生態がようやく明らかになってきたという訳です」
となると、保護のための取り組みが必要ですね。
「これまでも、減少を防ぐため、雌は食べないようにしようとは言っていたのですが、最近の研究によって、ヤシガニの雌は自分よりも大きい雄しか交尾の相手に選ばないことが分かってきました。つまり、大きい雄がいなくなると繁殖自体ができなくなってしまうんです。
ですから、今は大きいヤシガニをとらないようにとも呼びかけられています。一方、高額で取引されるということもあって、市場では食べごたえがない小さいヤシガニまでもが売られるようになってきています」
確かにそれで生計を成り立たせている人もいるわけですが、目先のことにとらわれて絶滅させてしまっては、結局、後で困ることになりますよね。
「近年は、多良間村や宮古島市で保護条例もつくられています。一番いいのは、天然記念物に指定することだと思いますが、そのためにはもっと生態調査を行って、データを集めることが必要ですね」
昔から、沖縄の人々にとって大切な食文化の一つでもあったヤシガニ。その文化を、ぜひとも後世にも伝えていきたいと願う調査員でした。