「島ネタCHOSA班」2016年01月14日[No.1603]号
植物に音を奏でさせる植物音楽があると聞きました。沖縄の人が発案したそうですが、一体どんな音楽なのでしょうか?
(那覇市 K・Aさん)
植物が音楽を奏でる!?
植物が音楽を奏でる? どういうことなのでしょうか。調べてみると、海洋博公園にある熱帯ドリームセンターの創設の際に発表されたとのこと。制作者の上地昇(のぼる)さんにお話を聞くことができました。
ウチナーンチュが発案
「『上地さん』じゃなくて、フランクに『ジョージ・ショウ』って呼んでね」
お会いするなりそう話してくれた、テンガロンハットがトレードマークのジョージさん。高校を卒業後、アメリカの大学で現代音楽を研究する日々を送ったそうです。
「1971年に沖縄に帰ってきて、現代音楽を演奏したらみんな泡吹いちゃった。それもそうだよね。今まで沖縄に存在したことのない音楽文化を紹介したんだから」
そう言って、ピアノでその時の曲を弾いてくれたジョージさん。確かに、言葉ではなかなか表せない、リズムもテンポも変幻を重ねる不思議な音楽。ピアノも鍵盤を弾くだけでなく、内部の弦を直接叩く「内部奏法」も取り入れ、音の種類も拡大させているそう。
「芸術は前衛でなければならないという思いで表現を続けていて、その中で植物にも音楽をさせてみようという発想にたどり着いたんです。植物にだって音楽ができるだろうって。30年以上も前の話です」
植物の波形を音に
読者の皆さんは、まだ「植物に音楽を奏でさせる」というところが疑問ですよね? そのカラクリはこうです。
「音というのは空気の振動で、波形が生じます。つまり、波形があれば音が作れるんです。人間にも脳波があるように、植物にも波動があります。われわれは植物の葉や幹にセンサーを付け、その微弱な波形をコンピューターに取り込んでシンセサイザーで音に変換しました。これは紛れもなく植物が発している音楽そのものです」とジョージさんは説明します。
「植物の種類、時間帯、環境によってこの波形は変わっていきます。同じ種が同じ波形ということではなくて、個体によっても全然違う個性的なものなんです」
なるほど、だんだん分かってきました! ところで、ジョージさんの好きな波形を出す植物はありますか?
「この観葉植物のシルバーキングが出す波形ですかね(右上の図参照)。途中で波形が細く刻まれているでしょう。これはタバコの煙を当てた瞬間です。植物にはヒトなどと違い、脊椎がないから波形が不規則。そうすると音楽も不規則となり、そこがまた面白いところです」
ジョージさんが発案した植物音楽の研究チームに、技術メンバーとして携わっていたのが、村松志門さんと石嶺幸信さんのお2人。
「初めはうまく波形が取れずに作業場に寝泊りする毎日でした。最初に波形が取れた時には、お互い生命同士で会話ができたような感覚になりましたね。僕らの他にたくさんのボランティアの皆さんの協力あっての成果でした」と村松さんは当時を懐かしみながら話してくれました。
こうして、日本第1号となる植物音楽を、1986年の熱帯ドリームセンター創設記念作品として発表。その後1990年にも大阪で開かれた「国際花と緑の博覧会」で発表したそうです。
「音楽というのは人類だけのものではありません。イルカやクジラなどは鳴き声で遠方にいる仲間たちと連絡をとっているといわれている。地球だって、内部にある超高温の核の摩擦音は音楽に変わる。銀河系にまで視点を広げてみると何千億もの星の交響楽団です。人類が作った音楽は、とりあえずは人類だけのもの。たった一粒みたいなものですよ」 目に映るこの世の全ては音楽︱。そう考えると、世界が変わって見えてきませんか?