「島ネタCHOSA班」2016年04月21日[No.1617]号
ニガナの白あえを食べていたら、もともと大宜味村根路銘で生まれた料理だと、大宜味村出身の友人が言うのです。伝説もあるそうです。信じられません。調べてください。
(那覇市 ンジャナバーチョーデーさん)
ニガナの白あえ 根路銘発祥!?
えっ! あの苦い薬用植物のニガナを豆腐であえただけの料理に発祥地があるとは…。早速、大宜味村教育委員会に問い合わせてみました。
「根路銘区には昔から旧暦3月3日に女の神様をまつる御嶽にインガナズネー(ニガナあえ)を供する伝説由来の行事があります」
ニガナの白あえを神様にお供え? そんな不思議な民俗行事もあるもんだと、旧暦3月3日大宜味村に向かいました。
ぬかを豆腐に
根路銘公民館を訪ねると、老人会・婦人会の区民がまさに大量のニガナを刻んでいる最中。よく見ると、ニガナとは違うような葉野菜? 「これはアルゼンチンフダンソウですよ。今はこれを使っている」と、教えてくれたのは区の長老の宮城三恵子さん(85)。「根路銘の昔ごとを聞くならこの方」と、区長の吉本隆之さんが取り計らってくれました。
三恵子さんによれば、「昔は旧暦3月3日のウガミの前日、女性たちは班ごとにインガナ(ニガナ)を畑に探しに行き、イザリ(漁)をしてタコ、シガイなどのクイジミ(具材)でインガナズネーを作り、インガナズネーが好きだった女の神様にお供えしました。昔はジイ(たれ)にぬかを使ったそうですよ」
ジイとは、島豆腐をつぶして油で炒め、ツナ缶、みそ、酒、水、ピーナツバターを混ぜて練り込み、煮込んだもの。ぬかが豆腐に代わったのは大正時代の中頃だそうです。ジイはピーナツバター、ツナ缶に代わり現代風になったものの、根路銘独特の作り方は変わりません。その作り方を見せてもらいました。
刻み終えた大量のアルゼンチンフダンソウは水洗してあくを除き、網袋に入れて洗濯機で水切りします。冷ましたジイに、アルゼンチンフダンソウ、具材を混ぜあわせて白あえに。ジイを加熱することにより日持ちもよく、冷蔵すれば1週間はおいしくいただけるとか。「シーミー(清明祭)で帰省した親戚にジイと刻んだ野菜を別にして手土産に持たせます」と、三恵子さん。
歌姫の霊に捧げる白あえ
そもそも白あえが好きな神様とは、どんな方だったのでしょう。「根路銘誌」をひもとくとー。
昔々、根路銘の森に美しい声で歌う女神がすんでいたそうな。根路銘を見下ろす隣の森には男神、その隣の森に美貌のもう一人の女神がいて、2人は結ばれたものの、美貌の女神の気の強さが災いして別れることに。
やがて男神は美声の女神と幸せに暮らします。嫉妬した美貌の女神は、その美声をつぶす薬をいれたニガナのあえものを2人に食べさせます。ニガナのあえものが好きな女神は、それとは知らず満腹するほど食べてしまい病で亡くなるのです。
歌姫ともいわれたその女神を哀れみ旧3月3日に根路銘の女性たちが真心込めたニガナのあえものを供するようになったそうな。
「旧3月3日インガナズネー」の行事は、区民一同が公民館に集まり、歌姫をしのびながらインガナズネーをいただきます。調査員も相伴にあずかることに。シャキシャキとした食感のアルゼンチンフダンソウがこくのあるジイに混ぜ合わさった由緒正しい白あえのインガナズネー。きっと歌姫も癒やされるに違いないほどの優しい味わいでした。