「島ネタCHOSA班」2017年06月15日[No.1677]号
沖縄には、国内で確認できるアリの種類の6割がいると聞きましたが、本当でしょうか? また、沖縄で見ることができる面白いアリについても教えてください。
(西原町 アイコーマイラブさん)
国内アリ種 6割が沖縄に!?
国内に住むアリの種の6割が沖縄に!? これは調べないわけにはいきませんね!
162種が集中
調査員が向かった先は琉球大学。農学部亜熱帯農林環境科学科教授の辻和希さんの研究室を訪ねました。アリをはじめとした社会性昆虫の研究に取り組む辻さん。「アリのことなら何でも聞いてください」と温かく調査員を出迎えてくれました。
「国内でこれまで確認されているアリは270種。そのうち、162種が沖縄で見つかっています」と話す辻さん。国土面積が0・6㌫の沖縄に、6割の種が集中しているとは驚きです!
「沖縄にアリの種が多い理由は、次の3点が考えられます。1つ目は、亜熱帯であること。一般的に、亜熱帯のほうが温帯よりも生物の種数が多いんです。
2つ目は、地理的な要因。琉球列島はかつて中国大陸と地続きだったのが、切り離されて現在の形になったとされています。寸断された環境に置かれると生物は新しい種に分化し、時間が経過すればするほど分化が進みます。
実は最近の研究で、中琉球(奄美・沖縄諸島)は、他の島と切り離されてから200万年ぐらい時間が経っているのではないかと指摘されているんです」
に、200万年!? なるほど、長〜い時間の経過が種の多様さを生み出したのですね。
「3つ目は、内地に比べて外来種が多いこと。実に約2割が外来種なんです」
外来種って……。外国から来たということですか?
「外来種とは、例えば荷物などと一緒に、人が介在することで外から入ってきた種です。外来種のほとんどは、沖縄で科学的調査が行われるようになった時点で既に生息が確認されているのですが、DNAを調べると実は外来種であることが分かるんです。
ただ、いつの時点で入ってきたかは分かっていません。琉球は、中国や東南アジア諸国と交易を行っていましたから、その時にやってきたのかもしれませんね」
注目の在来種は?
ここで、沖縄にいるたくさんのアリの中でも、特徴的な在来種を教えてもらいました。
まずは「オキナワアギトアリ」。右の写真①を見れば分かりますが、まるでクワガタのような大きなアゴが特徴です。
「アゴは180度に開きます。かむ力も強力ですが、アゴが閉じるスピードも驚異的。(体の大きさとの比率で考えて)動物界で最速の動きができる器官だとされています。さらに、巨大なアゴで地面を蹴ってジャンプします。50㌢ぐらいは飛びますよ」
次の「トゲオオハリアリ」(写真②)も負けてはいません。このアリの特徴は、すべての働きアリが、潜在的に女王になる能力を持っていること。
「羽化したてのトゲオオハリアリは小さな翅(はね)を持っています。この翅を持ち続ける個体が女王アリの役割を果たし、翅がなくなると働きアリになるのですが……。なんと、女王が生まれてくるアリたちの翅をむしり取ることで、働きアリにしているんですよ」
ええ〜っ! 人間の視点から見るとちょっとひどいですね……。
「でも、このアリは分子生物学、発生生物学にとって非常に重要な存在となっているんです。翅を人為的にむしってやれば働きアリになるので、働きアリと女王アリが分化していく際、どういう化学的なメカニズムが働いているか調べるのに最適なんですよ」
最先端の研究を支えるアリが沖縄の在来種なんて、ちょっと誇らしいですね。「多くのアリの種が住む沖縄は、研究に有利な地」と力説する辻さん。沖縄発のアリの研究が、世界に貢献することを期待しましょう!
写真提供:村山望