「島ネタCHOSA班」2017年12月14日[No.1704]号
先日、豊見城市の漫湖水鳥・湿地センターの干潟で瑠璃色をした不思議なシオマネキを見ました。これまで、いろいろなシオマネキを見てきましたが、全身が青色のものは初めてです。新種ではないのか気になっています。
(今帰仁村 フラーカメラマン・山原昼夜さん)
全身青いカニの正体は!?
依頼者が送ってくれた写真を見ると、鮮やかなブルーのカニが。 宝石のように輝く姿に魅せられた調査員。海の生き物図鑑などを見てみましたが、こんなに青いカニは見当たりません。
これは、依頼者の言う通り、新種ではないのか!? 期待を胸に、カニといえばこの方、「しかたに自然案内」の鹿谷法一さんのもとに向かいました。
新種発見となるか
鹿谷さんに写真を見せると「これはヤエヤマシオマネキの稚ガニでしょう」とあっさり判明。気を取り直して話を聞くと「稚ガニの時期は、体が鮮やかな青色をしています。実際の大きさは、甲羅の幅が1センチもないと思いますよ」と鹿谷さん。そんなに小さいカニだったとは驚きです。
なぜヤエヤマシオマネキだと分かったのでしょうか。
「シオマネキ類の雄は片方のはさみが体と同じぐらい大きいのが特徴で、ヤエヤマシオマネキのはさみは下半分がオレンジ色です」。このはさみは求愛やけんかに使われ、求愛行動のときの動きが潮を招くようであることから「潮招き」と呼ばれているそう。
「次の特徴は、甲羅の形が台形ということ。前が広く、後ろが狭まっていて、前側の角はとがっています。また、稚ガニは目と甲羅をつなぐ眼柄(がんぺい)が太く、赤い色をしています。成体(大人)になると赤が抜けて、まち針のように細くなります」
ヤエヤマシオマネキはシオマネキの仲間で、スナガニ科。シオマネキの仲間は日本には10種類いて、沖縄本島にはそのうち、オキナワハクセンシオマネキ、ミナミヒメシオマネキ、ベニシオマネキなど8種が生息しているそうです。
大人になると色が変わるんでしょうか。
「稚ガニの時は鮮やかな青色ですが、その期間も約1カ月弱と短い上に、天気がいい日や元気な時のみ。元気がない時は黒っぽい色になります。成長すると甲羅の幅が2㌢ほどになり、黒褐色に変わります」
えっ、体調によっても甲羅の色が変わるなんて不思議! 今も見ることができますか。
「この時期は見られないと思います。海岸付近にすむカニは春先に産卵し、ふ化してプランクトン生活を送った後、7〜8月頃にメガロパ(カニの幼生)になって戻ってきます。夏の初めには1〜2ミリぐらいの稚ガニが、9月ぐらいにやっと肉眼で見える大きさになります」
干潟の掃除屋さん
ヤエヤマシオマネキは1980年代までは沖縄本島では見られなかったという鹿谷さん。
「もともと暖かい石垣島や西表島にいましたが、温暖化の影響で本島に定着できるようになったと思われます」。さらに3〜4年前から別の2種類のシオマネキもやってきて、今では漫湖の干潟に普通に見られるそう。鹿谷さんによると青い稚ガニが多く見られるようになったのは去年から今年にかけてだそうですが、「稚ガニのときに暖かくてより良い環境になり、本来の青色も目立つようになったのではないでしょうか」と推測します。
シオマネキ類は干潟やマングローブの泥に巣穴を掘って生息。小さいはさみで泥をすくい、有機物をより分けて食べ、泥だけを捨てるそうです。「河口近くの干潟で、泥の表面にたまった有機物、つまり私たちが流した生活排水などの汚れを掃除してくれているということです」
人間が出した汚れを食べてくれているとは!
「また、巣穴を掘っているということは、干潟の泥をかき混ぜているということ。畑をミミズが耕すように、穴を開けてそこに新鮮な空気や水を循環させ、泥が腐らないようにしてくれているんです」
さらに大きくなったカニはシギやチドリなどの渡り鳥が食べているそう。干潟も耕し、掃除もし、さらに鳥にとっては重要な餌にもなるのですね。
シオマネキは実は人間の暮らしと密接につながっていることを学んだ調査員。彼らがすめる環境を壊さないように生活しようと心に決めたのでした。
写真/村山望