「島ネタCHOSA班」2019年01月17日[No.1760]号
本土から沖縄に移住した者です。本土では「冬はカエルが冬眠し、春になったら活動する」というイメージがあるのですが、沖縄では冬眠しないという話を聞きました。興味があるので、もっと詳しく教えてください。
(那覇市 オタマ・ジャクシーさん)
沖縄のカエルは冬も元気!?
調査員も「カエルは春に冬眠から目覚める」というイメージを持っていました。温暖な沖縄では違うのでしょうか?
冬眠せず活動
沖縄のカエルについて話を聞こうと、調査員は沖縄のカエルを研究している宜野湾市立博物館館長の千木良芳範さんを訪ねました。あのー、沖縄のカエルは冬眠しないって本当ですか?
「はい。本土の常識は沖縄の非常識。沖縄では通用しませんよ」とキッパリ即答する千木良さん。うーむ、やはり冬眠しないのですか。
「沖縄の気候は亜熱帯。平均気温は最も寒い月で16~18℃で、気温が10℃を下回ることは少ないのが特徴です。カエルにとっては、特に備えなくても死なないだけの暖かい気温があります」
沖縄は、カエルが一年中活動できる恵まれた環境なのですね。
「例えば12月のやんばる(沖縄島北部)で、山地にある渓流の砂泥地広場や浅瀬を訪れてみると、この時季に産卵期を迎えるたくさんのリュウキュウアカガエルでひしめきあっていますよ」
実際に千木良さんが調査した例では、長さ70㍍・幅15㍍ほどの範囲に、雄だけで2700匹ものリュウキュウアカガエル(写真①)がいたこともあったそう(数えた千木良さんもさすがです)。ちなみにリュウキュウアカガエルは、名前の通り赤色で、体長3~5㌢の小型のカエル。「ピョッ、ピョッ」と小鳥のような鳴き声が特徴とのこと。
「渓流の砂泥地広場はカエルたちが大好きな場所で、産卵の場所に使われます。やんばるには、夏と冬それぞれに産卵期を迎えるカエルがいます。同じ空間を、季節によって別のカエルが使っているんですよ」
産卵期をずらすことで混雑を避け、限られた空間を分かち合っている、と…。
「はい。日本全体にすむカエルの種数は43。そのうち沖縄県には20種、やんばるには12種のカエルが生息しています。面積単位で計算すると、沖縄県は本土の77倍、やんばるには約308倍ものカエルの多様性があるといえます」。カエルたちは、年中暖かい沖縄の亜熱帯性気候を生かし、種の多様性を維持することに成功しているのですね。すごい!
まだまだ謎も多い?
ではここで、冬にやんばるの山地で産卵期を迎えるカエルたちをご紹介しましょう。まずはオキナワイシカワガエル(写真②)。県指定天然記念物で、体長が10㌢を超える大型のカエル。「ヒュウッ」という鋭い鳴き声が特徴です。背面には独特の斑紋があり、「日本一美しいカエル」と言われているそうです。産卵期は11~3月、沢すじの穴の中などに1000個ほどの卵を産むそうです。
次にハナサキガエル(写真③)。体長5~7㌢ほどのスマートな中型のカエルで、ジャンプが得意。体色は茶色から緑色と変異があり、渓流の水中の岩棚の下などに卵を産みつけます。産卵期は12~2月。
12~3月に池の周囲などに集まって産卵するのが、オキナワアオガエル(写真④)。名前の通り緑色のカエルで、こちらは中南部でも見られるそう。水辺の落ち葉の下や周りの枝に泡状の卵を産みつけます。
「実はカエルの生態は、まだまだ分からないことが多いんです。例えば変態後のリュウキュウアカガエルは、2㌢ほどに成長すると姿を消してしまい、繁殖期に再び姿を見せるまでどこにいるのか分かっていません。他のカエルについても、産卵から何日ぐらいで孵化・変態するか、また寿命など、今後もさらなる調査が必要です」
最後に千木良さんは「カエルに良い環境は人間にもよい環境。カエルの調査は、河川環境のチェックにもつながる」と話してくれました。