「島ネタCHOSA班」2020年08月06日[No.1839]号
友人の知り合いがプルタブ型ではないサバ缶詰の空き缶を欲しがっているそうです。何でもさびを付着させた作品、「錆アート」の創り手らしいのです。錆アートって何ですか?
(さび付いた感受性のわたくしさん 那覇市)
錆(さび)、寂のアート!?
劣化のイメージしかないさびに魅力を感じる不思議な人がいるもんだと、うわさの元をたどっていくと、何と調査員も知っている人物でした。
その錆アートの創り手とは、NPO法人「あきみよ」理事長で、県人権擁護委員協議会の人権擁護委員も務める棚原洋子さん(62)=浦添市。沖縄の食や芸能の伝承、人権相談に携わるお堅い印象の棚原さんが錆アートをやっているなんて、「あれれっ」て感じです。
作品を拝見しようと興味津々で、あきみよの事務所を訪ねました。
禅に通ず、幽玄の美
そもそも、さびとは何ぞや…。ネットや専門書で調べてみると、金属の表面が大気中の酸素や水分と結び付いて、自然本来の形(鉄鉱石)に回帰しようとする酸化現象、いわゆる腐食した生成物だと分かりました。ことに大気中の飛来塩化物はさびを促進させます。
島しょ県の沖縄は亜熱帯海洋環境。塩害の象徴でもあるさび、アートに昇華させるほど惹(ひ)かれた要因とは?
棚原さんは言います。「劣化の世界が幽玄の美としてそこに凛としてあるから。腐食によって、金属が朽ち果てる姿。命の終わりがあり、あらゆる物に限りがあるという美意識で、禅の世界を創造できるのだと思います」
その禅の世界観を見て取れるのが、さびをまとったバーベルプレートにすっくと辺野古の海の砂の塔が立ち、エアプランツが宙に伸びる作品。サバ缶の空き缶に、3年かけてさびを育てたという作品が「サバ缶、凛として」。缶切り型のふたに付着したさびが20㌢ほど高いサンゴアブラギの幼木に「寂」の印象を添えて、なるほどプルタブでは創り出せない味わいです。
エアプランツのモチーフで、もう一つの概念も植え込んでいるという棚原さん。「さび付いて朽ち果てる容器にエアプランツを育てる、いわば命を吹き込むことで、さびはさびにあらず!ですかね」
「多肉植物系女子」
さびの魅力に目覚めたのは30年ほど前。棚原さんは子育て真っ最中でした。「何気なく拾ってきた、四角く折れ曲がったさび付いた鉄筋を自然素材と組み合わせてフォトフレームに。当時幼かった子どもたちの笑顔を収めて、わが家の歴史を飾っています」
華道や茶道、着物着付けなどを習い事にしつつ20年間の銀行勤務の後、16年前には「カフェギャラリー花水木」の開店と同時に、NPO法人を設立。2014年のウージ染展で花水木を閉じ、幾つか日本文化の趣味を手放すのですが、今日まで錆アートを続けてきたという理由とは?
「自身の感性にフィットする寂びの文化に通じ、基準やカリキュラム、答えがなく自分流を極めること。さびの付着の良い容器ありきですが、主役の植物はエアプランツやサボテン、多肉植物がよく似合います」
多肉植物の育て方に持論が伺えます。「放って置いて水やりはほどほどがいい。無視してもいけない、元気がないなと思ったら構ってほしいのは私も同様、実は自称多肉植物系女子です」
日頃、左脳系の友人知人とのビジネス付き合いの一方、アーティストたちと芸術論を交わす機会も多い棚原さん。右脳の感覚を互いに理解して、そのみょうり冥利の共有が心身の栄養になっていると語ります。