「島ネタCHOSA班」2021年06月03日[No.1882]号
やちむんの作家が架空の王国をテーマに作った陶磁器作品があるという話を聞きました。ヤギの頭像や、ガスマスク(?)などを制作しているということですが…?
(那覇市 てだこムーンさん)
やちむんで「架空の王国」表現!?
やちむん作家が架空の王国をテーマに作った陶磁器作品!?架空の王国とは、そして陶磁器なのにガスマスク(?)とは…?
映画のような世界観
調査員が途方に暮れていると、やちむん好きな知人から「それなら昔、見たことがある」との情報をゲット。彼の記憶から、那覇市壺屋のやちむん通りにある老舗窯元「育陶園」の7代目が制作を手掛けたことが判明しました。
というわけで、さっそく「育陶園」を訪れた調査員。7代目の高江洲尚平さんとお会いできるということで、少々緊張しながら待ってましたが…。
現れた高江洲さんは、ニコニコと柔和な笑顔を浮かべ、少しも威圧感がありませんでした。ほっとした調査員が、「架空の王国をテーマにした陶磁器作品」について聞いてみると、2018年の3月にてんぶす那覇の那覇市伝統工芸館で開催したという展覧会の様子を記録した写真を見せてもらえました。
写っていたのは、ヤギの頭、足のついた杯、杖、骸骨、陶器の破片…。西洋を舞台にしたファンタジーを思わせる世界です。なんとも不思議な印象ですが、これは…?
「『ゴント王国という架空の王国から発掘された遺物を博物館で展示した』というコンセプトで、陶磁器やオブジェを制作し、展示を行いました」
ゴント王国!?
「現実には、琉球王国は中国文化の影響を受けていますよね。島国国家という条件は同じで、もし西洋文化の影響を受けていたらどうなったかという仮定の王国です」
なるほど、それで西洋的なイメージなのですね。
「ヤギは生と死を司る神の使いであり、王国のシンボル。足のついた杯は、『ゴブレット』と呼ばれる王国への献上品で、ヤールーやヤンバルテナガコガネの文様が付けられています」
まるで映画のように作り込まれた世界観です!
命がけで遊ぶ
「ゴント王国は近代以降も存続し、1985年に文明が崩壊したというストーリーです。展覧会では、王国滅亡後に『残留外国人』が調査した記録という設定で、写真作品も展示しました」
ガスマスクは王国の崩壊と関係があるのでしょうか? いやはや、壮大なストーリーです!
ところで、なぜ壺屋焼の老舗・育陶園7代目の高江洲さんがこのような展示を?
「昔と今では、やちむんのあり方がずいぶん変わってきました。その中で『何のために陶芸をやっているのか?』という理由づけをしたかった。自分の好きなものを妄想して、命がけで遊ぼう、自分がどんな人間か認めて、持っているものを全部出し切ろうと思ったんですね」。好きだった映画やゲームの世界観も盛り込みつつ、「妄想」の世界を広げ、展覧会を完成させたといいます。
「作っている時は、周囲は『何やってるの?』という感じの反応だったんですが(笑)、展覧会の後は、ギャラリーに作品をすぐに置いてもらえたり、新たな仕事につながったりと、説得力が出てきた」と語ります。
「壺屋焼はいろいろできる、という提案でもあります。やちむんの別のとらえ方を提案できたら」
想像力で架空の世界を生み出した高江洲さん。その不思議な世界は、育陶園のそばに開設し、器・オブジェを販売する喫茶室「Etha(イーサ)」で垣間見ることができます。今後の展開も楽しみですね!
器と喫茶と妄想実験室 Etha
那覇市壺屋1-22-38 103号
12時〜18時
日曜定休(イベント時は営業)