「表紙」2011年07月07日[No.1371]号
●食の可能性引き出す
中部農林高校 食品科学科
パリッとした白衣を身に着け、シークヮーサーの皮をていねいにつぶしながら液体と固体を分離していく。傍らでは、慎重に確かめながら抽出液をビーカーに注いだり、鍋で煮詰めたり。作業をしながらも笑顔が絶えないのは、県立中部農林高校食品科学科の3年生。抽出した天然のペクチンを商品化する取り組みは、なま物を扱うだけに気が抜けない。「休みの日も、ペクチンの様子を見に来ます」。屈託なく話す彼女たちの授業風景を見せてもらった。
●課題通し、命の大切さを学ぶ
食品科学科は、調理コースと加工コースに分かれる。取材した調理コースでは、グループで協力し合って課題に取り組む。2、3年生一緒の時間もある。
「1学年1クラス、3年間一緒なので、みんなの絆が強い。それに、後輩とも一緒に課題に取り組んでいるので、学校全体が仲良しなのが自慢です」
と胸を張る。「県内でトップの倍率をくぐり抜けてきた子たちですから、学力、将来の目標ともに高い。何より、意志の強いがんばり屋さんです」と、教師たちも生徒をたたえる。
課題は、代々先輩たちから引き継ぎ、新たな課題を見つけ、掘り下げる。中部特産のお茶や紅いもなど、数十種のジャムはその一つ。今年はさらに、シークヮーサーの搾りかすから付加価値のある商品・産業を創ることに取り組んでいる。
「搾りかすのほとんどがたい肥にされると聞いて、もったいないな、どうにか生かせないかな、と思って」と、着目したきっかけを話す。ひと口にシークヮーサーと言っても同じじゃないそうだ。
「例えば、未熟な皮と加熟の皮、両方からペクチンなどの成分を抽出して、よりゲル化(ジャムなどを固める作用)が安定しているのはどれかな、と確かめたり。未熟の方が安定してるのが意外だったけど、実験していて、一歩一歩結果が出るのがすごく楽しい」
みずみずしい感性とアイデアで宝の山を発掘する。発想は無限に広がっていく。
食べ物の原理を学ぶだけではない。生徒たちは、高校生になったばかりで”命“を強烈に意識する経験をする。1年生の時、生徒ひとり一羽小さな小さなひよこを飼う。えさを与え、世話をして育て、約1カ月後に食用にする。
「とってもつらかった。みんな号泣。失神する子もいる。でも、感謝しながらいただきました。食べることってすごいことだと思う」
ペクチンの研究と並ぶ課題の柱は、天然酵母を使ったパン作り。校内で丹精込めて栽培している野菜や果物から抽出した酵母にこだわり、試行錯誤を繰り返す。
「ドラゴンフルーツ、島バナナ、四季柑、ペパーミント…。10種類近い酵母からパンを作りました。酸味や発酵臭、ふくらみなど一つひとつ確かめて、みんなに試食してもらいます。まったく人気のないパンもあって、失敗と成功の繰り返しです」
その地道な取り組みが大手コンビニの目に止まり、2年前、共同開発した天然酵母パンが店頭に並んだ。その時の感想を聞くと、
「お店に見に行きました。照れたけど、すごくうれしかった」
と、高校生らしいあどけない表情になった。シークヮーサーペクチンも、企業とタイアップして商品化される予定だと言う。
食は命―。言葉で言うと短いが、身をもって体験した彼らは、大人になっても忘れることはないはずだ。いや、そんな気負いなどなく、キラキラと目を輝かせながら語る姿が頼もしかった。
編集・島知子/写真・島袋常貴