「表紙」2011年09月01日[No.1379]号
県内で唯一、南風原高校に専門科目として設置されている郷土文化コース。琉球舞踊、唄・三線、古武道を核に、実技はもちろん、作品の歴史的背景や方言を学び、技を次世代に継承することの大切さを自覚する。観客あっての芸能なだけに、生徒たちは体をいっぱいに使った表現力でその場をなごませ、楽しませる工夫を日々続ける。この日は、地域の公民館でお年寄りを前に舞台を務めた。
地域の宝を引き継いで
一学年一クラスの郷土文化コースの三年生は、三つのグループに分かれてそれぞれ技を磨く。この日、南風原町宮平公民館を訪れた「美(ちゅ)らーず」のメンバー十人は、会場設営や着付け、化粧なども互いに協力して進める。
「わったー(私たちの)南風原高校の生徒さんたちが来ているよー」「はい、手拍子もして盛り上げようねー」と、会場に集まったお年寄りたち。幕が開く前からワクワクした空気が作られていく。芸能が息づく地域の力強さだ。
発表する演目や構成も、各グループの特色が出るよう工夫し、司会や幕間の”ゆんたく“、観客との掛け合いも、場の雰囲気を読みながら進めていく。伝統の型を基本に、ある場面では唄者に、ある時は道化役に変身する。学習発表のような硬さはなく、自然体の表情が印象的だ。
「舞台は、励みになる。とっても楽しみだし、大好きです」
舞台を終え、充実感を素直に表現する生徒たち。なるほど、披露した民謡に出てくる地名を「宮平」と言い換えたり、最後は全員を巻き込んでカチャーシーで盛り上げるなど、はつらつとした演出で観客の心をつかんだ手応えが、日々の学習への励みにもなっている。
「伝統芸能と聞くと、プロとかお年寄りが好むものと思われがちだけど、私たちの舞台は、地域の子どもたちも大勢見に来てくれるから、いろんな要素を取り入れるよう工夫します」
伝統芸能についての経験を聞くと、「家族の影響で小学校から習っています」という生徒もいれば、「高校に入って始めた」と、まったく経験のない子も。不安はなかったですか?
「宮古とか八重山とか、地方ごとの唄の背景は難しかったよね」「昔の恋愛ソングも!」と屈託なく語る一方で、「経験がなくても、何か一つ興味を持ったら沖縄の文化が好きになってきました」「一から自由に学べるのが、私たち南風原高校の良いところ」と、生き生きとした言葉が返ってきた。
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「私たち本番に強いんですよ」と笑顔で話す生徒たちだが、実技試験が多いことも郷土文化コースの特徴の一つ。曲を習得するたびに、一人ひとりが担当教諭の前で披露する。教諭は、「彼らの中から指導者のなり手が出るかもしれませんし、伝統文化ですから、きちんと後世に伝えていくことが大切。それを基本に指導しています」と話す。コツコツと積み上げた結果が、舞台での堂々とした演技に表れている。
ほかの高校にはない学生生活を過ごしたメンバー。卒業後、進む道を尋ねると、「人と関わる仕事がしたい」と口をそろえる。学問として大学進学を希望する生徒もいるが、バスガイド、医療・福祉関係、観光産業、保育士などなど。伝統の技をツールに、人とつながる職業は普遍的に広がりそうだ。
「舞台と一緒かな。仕事に生かすにしても、一方通行じゃなく、出会う人との気持ちが行き来するために、この三年間の経験を生かしたいです」
インタビュー後、仲間とともに写る舞台写真をながめながら、楽しそうに笑い合う生徒たち。思い出のアルバムは、社会に出てもいつまでも色あせないはずだ。
(島 知子) 写真・國吉和夫
昭和50年に設立。生徒数953人(男子557人・女子396人)。平成6年に特色ある学校作りを目指してコース制を導入。郷土文化コースのほかに普通総合コース(特進・総合)、教養ビジネスコース、体育コースの4科。昨年12月、本格的喜劇「遊び村栄い」(作・監修 上原直彦、演出・演技指導 北村三郎、演技指導助手 具志幸大)を盛り込んだ舞台発表を行い、観衆の心をつかんだ。