「表紙」2011年12月15日[No.1394]号
絶滅の危機に瀕した琉球在来種・アグーの復元に成功し、さらにはアグーと外国種から生み出した「チャーグー」で全国に知られる県立北部農林高校・熱帯農業科畜産コース。7年前に同校の名前を冠して登録商標されたチャーグーは、高品質の肉質にファンが多く、地域の活性化にもつながった。「ブランド豚」生産者の誇りとノウハウを代々引き継ぎながらも、生徒たちのまなざしは素朴でまっすぐ。命に寄り添い、心を込めて育て、出荷する。その輪の中心にすっくと立つ原動力は、感謝の心だ。
受け継がれる”開拓精神“
古来より沖縄の食文化を支えた在来種・アグー。その復元のため、関係者の祈るような期待を一身に背負った同校。全県調査の結果集められた、わずか18頭からスタートし、今では沖縄を代表する食材の一つに成長。畜産、流通、外食産業などの勢いを、今また支えている。
実習の日、学校からバスで北部農林高寄合原農場へ移動した。広大な実習場を持っていることも、同校の強みの一つ。チャーグーが待つ豚舎はその一角にあり、周囲には狂牛病予防の粉がまかれている。
普段通り豚舎に入った瞬間、生徒の表情が一変した。「準備して」と、互いに声を掛け合いながら、慌ただしく動き回っている。出産予定日より早く、今朝、新しい命が生まれていたのだ。女子生徒が赤ちゃん豚をそっと取り上げ、男子生徒がへその緒を切り、抗生物質を口に含ませる。横たわってお乳を与える母親をいたわるように向ける優しい目。命の神秘、ぬくもり。初めて見る光景に、ぐっと胸が熱くなった。
休む間もなく豚舎の掃除に取りかかる。そういえば”におい“。家畜独特のにおいはあるが、排泄物の臭いがしない。
「もともと豚はきれい好きだから、汚れているとストレスになっちゃうんで」
と、豚から目を離さずに言う。もくもくと、腰をかがめて作業する。
さらにはえさの準備。
「市販のえさはカロリーが高いので、健康を考えてビールの搾りかすとか麦を混ぜています」
と、女子生徒が手に取って説明してくれる。ほんのりホップの香りがし、大きめの粒はサラサラした感触だ。「ごはんだー」と言わんばかりに興奮する豚たちの柵の中に入り、豚の体調を観察し、きっちり計量し、記録を付けながら慣れた手つきで与えていく。
出荷予定が迫った9カ月のチャーグーの体重測定実習。生徒たちは「出荷」ではなく「仕上げ」と言う。成長した巨体で抵抗する豚を、一頭一頭はかりに追い込むのは、相当な体力と技能、勇気が要る。男子生徒が顔を真っ赤にしながら格闘していた。
常時約100頭飼育しているチャーグーと生徒たちは、日々出合いと別れを繰り返している。子豚の世話をしている生徒に、「出荷する時、さびしいですか?」と聞くと、きりっとした顔で答えが返ってきた。
「良い肉出たね、と言われるとうれしいです」
「企業とコラボレーションしたり、即売会で消費者と触れ合ったりする機会が多いので、自分たちが世話したチャーグーが常に評価の対象になっていることを、生徒たちは自覚しているんです」
と、担当教諭も話すように、目的意識が高いことをひしひしと感じる。
◇◇◇
ひと通り世話を終えると、実習で腕を磨いたトラクターを繰り、たい肥作りに取り組む。
「畜産から農業につなげて、循環型も勉強しています。無駄なことは何もないって、面白いと言うかすごい」
卒業後の夢を聞くと、「島に帰って畜産業を継ぎたい」と目を輝かせる男子生徒。親元を離れ、懸命に3年間を過ごした結果、見出した道だ。別の女子生徒は、「食肉関連の会社で、調理の現場に立ちたい」と話す。なぜ?
「”いただきます“の意味を教えてもらったから」
命に感謝することの意味を、くり返し自身に問いかけて3年間を過ごしてきた。その営みは、学び舎を巣立っても続いていく。
島 知子/写真・池原康二
明治35年甲種國頭郡角間切島組合立農学校として創設。その後、移転、改称を重ね、昭和21年北部農林高校として開校。熱帯農業科、園芸工学科、林業緑地科、生活科学科、食品化学科、定時制農業科。生徒数689人(男子381人・女子308人)。地域全体から期待され、見守られている伝統校。