「表紙」2012年03月29日[No.1409]号
「物心ついた時には夢中だった」と話す宮崎玄さん(30歳)。小学校の頃から魚釣りが大好きで、見るテレビも生き物に関するものばかりだったという。車エビ養殖の仕事に携わって3年。生まれ育った大阪から一人沖縄へやってきた。好きな仕事が出来る喜びで毎日が充実している。向上心と情熱であふれるなか、日々自分への課題は尽きない。自然と戦うこと、育てるという難しさを痛感しながらも「最高」を目指し全力で取り組む。
自然に感謝し、愛情注ぐ
宮崎さんは北海道大学水産学部を卒業後、インターネット関係の営業をしていた。
「大学へは将来のことを考えて決断したわけではなく、生き物のことについてもっと詳しく知りたかったからなんです。在学中はこの知識を将来にどう結びつけようっていう考えより、好きだという一心で勉強していましたね」と話す。
「営業は、周りに『向いてる』って言われてやってみたんです。凄く楽しくて、充実していました。僕が水産学部出身ということで、それと関係のある会社に営業に行くことが多かったんです。そこで実際に見たりお話を聞いたりしているうち、次第に養殖の仕事がしたいって気持ちになっていきました」
夢中で生き物を追いかけていた、魅了されていた少年時代を振り返り、迷いはなかった。沖縄へ渡り車エビを育てる、作った車エビを食べてもらうことや「おいしかった」という言葉に感動を覚え、日に日に向上心でいっぱいになった。
車エビの養殖は、夏には朝6時、冬は朝7時から始まる。最高の状態で送り出すために、努力は欠かさない。成長していくまでの過程でいかに神経を使い慎重に観察出来るかが重要だ。
車エビは基本的に夜行性のため、昼間は寝ている。その間に池に素潜りで入り傷がついていないか、体調を崩していないかをチェックする。
「傷がついてしまう理由としては、車エビは身体が硬いのでお互い同士ぶつかってしまったり、野鳥がつっついてしまったりなど、僕らではどうにもできないこともありますが、こうして毎日チェックして大事にしてあげることで少しでもキレイな状態のまま大きくなって欲しいなと思います」と笑顔で語る。
沖縄の気温は県外と比べて上下の差は少ないが、台風が多かったり、天気の荒れが激しい。宜野座養殖場では海水を直接取り込んでいるため、雨が降ると赤土が混ざって流れてきてしまう。赤土は車エビにとっては体調を崩す原因になる。
やむを得ず海水の取水塔をふさいでも、長く同じ水で生活しては同じことになる。変化に対応する知識、経験が大切だ。
「20年ぐらい働いている先輩がいるのですが、対応能力が本当に凄い。何か問題が起きたときの行動の早さを、僕は尊敬しているのと同時に、自分への課題でもありますね。車エビの状態が悪くなってからでは遅いので、そうなる前にいかに的確な判断をして迅速に行動できるかは、きっと経験によって身につくものなんだろうと思います。本当は何もないことが一番ですけどね」と笑う。この葛藤も、車エビに対しての愛情だ。
台風になると、停電になる場合に備えて夜も養殖場で待機していることも。自分のことよりも、車エビの状態を気遣う毎日は疲労も相当なものだ。そんな毎日を「やっと夢がかないました」と、幸せを感じている宮崎さん。
「辛いことがあっても、目標はいつだって最高の車エビを作ること、そしてそれを食べてもらうこと」と、まぶしい笑顔が光った。
普天間 光/写真・照屋俊
宮崎玄(みやざき げん) 1981年大阪府生まれ。北海道大学水産学部で生き物の養殖、しくみを学ぶ。卒業後インターネット関連の営業をした後、宜野座養殖場に勤務。「沖縄は暖かくて過ごしやすいです。でも寒さに弱くなったな~」と、苦笑い。
殻揚げ モーイ豆腐
車エビは殻も美味しいので捨てずに素揚げして、塩胡椒で味つければお菓子にもおつまみにもなります。
モーイ豆腐は乾燥した海藻を水で戻し油でサッと炒めます。それをカツオだしと車えびを混ぜて冷やし固めればOK♪風味と食感が楽しめる一品です。簡単ですので是非試してみてくださいね。