「表紙」2012年05月10日[No.1415]号
インタビューの最中、終始笑顔が絶えない天内亜由美さん(38)。明るくて話し上手の彼女だが、以前は消極的で人見知りだった。前職は営業。「営業の仕事をしたら、内気な性格が変わるかなって思ったんです。今の私からは想像できないでしょ」と話す。25歳の時、友人の勧めで那覇バスに転職。今年14年目のベテランガイドさんだ。それでも日々発見の連続だと話す天内さん。3歳と1歳の子どもを育てながら、同じ職場で運転手を務める夫と二人、試練を乗り越えてきた。母として妻として、仕事との両立に悩みながら奮闘し続ける。
思いやりの心大切に
天内さんは糸満市生まれ。北海道出身の夫、浩樹さん(39)と32歳で結婚した。家族は浩樹さんをはじめ、長女、紅杏(くれあ)さん(3)、長男、翔哉(しょうや)さん(1つ)の4人。いつもお祭り騒ぎのような楽しい毎日だという。
浩樹さんとは、友人の紹介で出会った。
2006年。結婚を機に浩樹さんが沖縄に来て一緒に暮らし始めた。2008年に妊娠。幸せ絶頂期だった。
そんなある日。妊娠から2カ月が経ったころ、医者から流産の可能性があると診断された。妊娠7カ月目で入院。動揺を隠せなかった。そして事態は更に悪化する。浩樹さんがリストラに遭ったのだ。
まだ浩樹さんが沖縄に来て数年のことだった。その後、仕事はなかなか決まらず、タクシーの運転手をして家計を支えた。入院費に生活費と出費がかさみ、次第に貯金もなくなっていった。気づいたらその日暮らしのような生活をしていたという。
「ストレスでどうにかなりそうだった。先のことを考えると、不安でした」と、当時を振り返る。
あきらめずに空いた時間を見つけて仕事を探す浩樹さん。天内さんは全力でサポートした。
「こんな時だからこそ、頑張るんだって思いました。けんかしても、どこかで抑えないといけない。だって夫婦だし、これから親になるんですよ」と強い意志をあらわにした。
そして偶然にも、天内さんが勤める那覇バスが運転手を募集していることを知る。
早速応募し、見事内定。夫婦で喜び、たたえ合った。
「うれしかったですね。今思えば、あの出来事が私と夫を成長させてくれました。必死だったし、苦しかったけど、こんな試練を与えてくれた神様に感謝しています」と笑顔。
現在は、会社内の託児所に子どもを預け、仕事を続ける。仕事と子育てを両立する日々に大変さを感じながらも、充実感で溢れている。
「託児所は前日までの予約制。夫婦とも仕事が不規則で、時間も予測不可能なので、とても助かっています。朝4時に出社することもありますし、昼の3時に終わることもあれば、
夜9時に終わったりと、日によってバラバラなんですよ」バスガイドの仕事は主に県外から旅行に来たお客さんに、県内の情報とともに楽しい思い出を提供する。1日の予定が変更することも多々あり、子どもを送り迎えする時間はギリギリまで分からない。会社の同僚、託児所の理解があって成り立っている。
「協力していただいている皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。私と夫だけではどうにもならないところを、助けてもらっています」と語った。
そのため、天内さんは仕事に一切妥協を許さない姿勢だ。
「お客さまの貴重な時間を、私たちも大切にしたい」と強調した。
ガイドになり始めた当初は、シミュレーション練習でも緊張で記憶も曖昧になってしまった。
「口の中が乾いて咳き込んだり、パニックになっていた気がします(笑)。職場の先輩からは『まずはお客さまをかぼちゃだと思って』なんて言われたりして…。でも、今も案内することの難しさを痛感する毎日です」
どんなに経験を積んでも、いつも新しいお客さんを相手にする。旅行者一人一人を思いやることを心がけて接しているそうだ。
最後に、天内さんに仕事と子育てを両立する秘けつを聞いた。
「いつも相手の気持ちになって考えることです。そして、笑顔を忘れない」
これからも挑戦し続ける天内さんの太陽のような笑顔は、周りにいる人々を明るく照らす。
普天間 光/写真・池原康二
1973年生まれ。糸満市出身。
撮影時、みんなが緊張している中、天内さんが翔哉(しょうや)さんを肩で抱え、「米俵だー」と歩きまわる。ドッと笑いが起き、気が付けば笑顔でいっぱいになっていた。夫の浩樹さんからは、「うちの奥さんは面白いです。というより、変な人」と大笑い。紅杏さんと翔哉さんからは、「パパとママ大好き~」と笑顔。公園で息を切らせながらも楽しそうに走りまわる天内さん一家。理想的な家族だ。
バスガイドに資格等は必要ない。那覇バスでは採用後、研修が1年あり、本島内の観光名所や歴史などを学ぶ。お客さんの前で沖縄民謡を披露するため、ボイストレーニングを行うなどそれぞれサービスの向上に努める。観光客にも初めて沖縄を訪れる人やリピーターがいることから、話す内容を状況に応じて変えていかなければならない。幅広い知識と対応能力が求められる。