「表紙」2012年09月27日[No.1435]号
夢を追いかけて
幼い頃、何気なく手にとったナイチンゲールの本。そこには敵、味方関係なく、全ての人々を助けようとする主人公がいた。大城さんは夢中で読んだ。夜が更けても全く眠くならなかった。その時「将来は人を救う仕事をしたい」と決意。しかし高校3年の頃、バスガイドと看護学校の試験に受かり、バスガイドを選択。子どもにも恵まれたが、パートナーとのすれ違いや転職への悩みなど、苦しんだこともあった。葛藤の末、夢だった「人を救う仕事」として南城市にある訪問介護事務所で介護職に就き、ようやく今の幸せを手に入れた大城さん。職場の仲間や、家族の助けを受け、仕事と子育てを両立。毎日を一生懸命走り続けている。
知識の向上、成長目指す
介護職に就いて4年目。前職のバスガイドをしながら、通信教育でヘルパー2級の資格を取得した。ヘルパー2級を持つと、実際に介護施設で働くことができる。仕事で通常の業務をこなしながら、必死で勉強していた大城さん。「長いこと、道を探してもがいていたような感じでした」と話す。
高校3年生の頃、バスガイドと看護学校に合格したときは、どちらに進むか、相当悩んだという。決定を左右したのは、母、貴美子さん(65)の言葉だった。
「『看護は大変だけど、できるの?』と言われ、不安になりました。人の命を救う仕事は、好きだという気持ちだけではダメなのかもしれないと思い、バスガイドを選択しました」
高校を卒業し、バスガイドの道へ進んだ大城さん。28歳になり、妊娠が発覚。その時から、パートナーと意見がすれ違うことが多くなった。悩んだ末に、一人で子どもを育てる決意をした。
翌年に長女、音美(ねみ)ちゃん(8)を出産。貴美子さんを始め、きょうだいも子育てを手伝い、大城さんを支えた。
しかし、仕事と子育ての両立は、大城さんが想像していた以上に過酷だった。仕事で北部まで行くこともあれば、ホテルに連泊することもある。音美ちゃんの保育園の送り迎えなど、家族のサポートはあったものの、心配だった。音美ちゃんが体調を崩したときも、大城さんは北部にいて何もできなかったという。
「家族のおかげで、私は仕事に集中することができました。でも、心の中では、母親としてこのままでいいのだろうかと考えていました」。苦笑いを浮かべる大城さんから、当時の葛藤が伺える。
そんな中、転機が訪れたのは、知り合いの勧めで介護施設を訪問したことがきっかけだ。施設に通う利用者と話をしながら、幼い頃に夢中になったナイチンゲールの本を思い出していたという。抑えていた気持ちがあふれだした。
「本当は、人を救う仕事がしたいという夢を諦められずにいました。母としても、もっと娘との時間を過ごしたかったし、今度は迷わず、自分の意思で転職を決めました」
33歳で介護の仕事に転職してからは、毎日が発見と勉強の繰り返しだという。認知症の利用者もいるため、対応の仕方はさまざまだ。考えさせられることや、未熟さを痛感することもある。しかし、その度に仲間の存在に救われている。
県内の介護福祉士が集まり、定期的に行われる勉強会がある。講師の話を聞いたり、現場で働く職員らとの意見交換ができるというものだ。そこでは、介護をすることで抱える問題を解決できたり、共感し合うことで、介護士の心のケアや知識の向上につながっている。
「日々、『どうしたらいいんだろう』と頭を悩ませることが多いのですが、勉強会に参加することで、みんな同じなんだと感じることができます。それに、頑張っている職員の話を聞くと、私ももっと頑張ろうと思えるんです」と、笑顔で強調した。
大城さんは、子育て中ということで、夜勤を免除してもらっている。音美ちゃんの小学校が施設の近くにあるので、学校が終わる頃にはいったん業務を抜けて迎えにいくことができる。二人でいる時間が増えたことに、喜びを感じている。
「いろいろなことがあったけど、諦めないで頑張って良かったと思います。私は一人じゃないし、これから何かあった時も、乗り越えていける気がします」
過去に迷いを断ち切ったことでうまれた強い意志を感じた。人はどんな状況でも、諦めなければ幸せは訪れる。大城さんは、自身の経験で伝えてくれた。
普天間光/写真・島袋常貴
南城市出身。南部商業高校を卒業し、バスガイドとして勤務。その後、通信教育で得た資格を生かして介護福祉士に転職。趣味はクラフト作り。娘の音美ちゃんとはとても仲良しで、撮影時にはカメラマンから「もう少し近づいて」と指示を受けると、二人はぶつかるようにくっつき笑い合っていた。音美ちゃんは現在習い事の琉球舞踊に夢中。大城さんを「かわいいお母さんです」とコメントした。
介護福祉士になるには、まずヘルパー2級の資格を取得する。そして、施設で介護等の業務に3年以上従事すると、介護福祉士国家試験の受験資格が得られる。合格すると、介護福祉士有資格者として、福祉施設やホームヘルパーなどで働くことができる。