「表紙」2012年10月04日[No.1436]号
県産品で品質向上を
スーチカーにテビチ、ミミガー、果てはしっぽまで食卓に上り、「鳴き声以外はすべて食べる」といわれるほど、県民に愛され親しまれてきた豚。糸満市伊敷で養豚業を営む神谷誓男(ちかお)さんの生産している豚肉は、臭みがなく、やわらかくて甘いと評判だ。理由を聞くと「乾燥して粉末にした県産のパインを食べさせているんです。酢豚にパインが入っているじゃないですか。あれをヒントにして(笑)。糸満らしくアセロラやパパイアも候補にあがったんですけどね」と柔和な顔が照れ笑いでくずれた。
貴重な在来種 守りたい
幼少期から豚とともに育ってきたのだと神谷さんはいう。
「そもそも養豚は親父が始めたことです。嫌いじゃなかったし手伝いもよくしていましたよ」
20歳で家業を継ぎ、三つある農場の一つを任された。だが、手伝いはあくまで手伝いだったのだと思い知らされた。
「何が大変か…全部でしたね。本当に手探りでした。親父に聞こうにも、向うも他の農場で手がいっぱいで」
飼料の配合から帳簿の付け方まで。どうするのか? 助けてくれたのは近所の同業者だった。
「スキを見つけてはお願いして、教えてもらってましたね」
周囲の助けを得て、何とか豚舎経営も軌道に乗ってきたころ、神谷さんは、自然交配から人工授精への切り替えに挑んだ。
「豚はオスからの遺伝がとても強いんですよ。だから、出産率にはオスのコンディションが大きく関わってくるんです。自然交配だと、どうしてもバラツキが出る。まずこれを改善しようと考えたんです」
挑戦は成功だった。出荷数は増加し、今では年間でおよそ3000頭を出荷するまでになった。だが、彼の探究心は終わらない。どうせならおいしい肉を作りたい。そのために他に何かできないか?販売を依頼している業者の社長と共に、悩む日々が続いた。
「やっぱり何を食べさせるかですよね。沖縄の豚だから、何か県産の作物を食べさせて肉質の向上ができないかと」
そんな時、彼の脳裏にある料理が浮かぶ。
「酢豚です。あれは、パインの酵素が肉を軟らかくするらしいんです。それなら、食べさせても良いんじゃないかって(笑)」
またも、ひらめきは当たる。豚肉は「上・中・並・等外」にランク分けされるのだが、およそ五割は「上」にランク付けされるようになり、独自のブランド豚「パイナップルポーク純」として流通させるまでに成長した。しかし、彼の挑戦はまだまだ終わらない。次は「アグー」だ。
「ずっと育てたかったんです。何と言っても貴重な在来種ですから。沖縄で養豚をやっている身として、きちんと育てて種を残していきたくて」
アグーを持っている同業者に頭を下げ続け、一年をかけて手に入れた。
あまり知られていないが、「アグー」を正式にうたえるのは、県のアグーブランド推進協議会に認可をうけた生産者だけだ。認可基準は厳しく、数カ所しか認定を受けていない。神谷さんの情熱は、その狭き門をも突破。今年、晴れて9番目の認定農家となった。
「うれしかったですよ。認定してもらうまで五年かかりましたから。でも、それが目標じゃなく、まだまだ、これからです。もっと勉強して、皆さんにおいしいって言ってもらいたいんです。そう言ってもらわないと豚に顔むけできません。消費者に満足してもらってこそ、命を育てて食べてもらうという私の仕事の意味があると思うんです」
ほほ笑みを浮かべながらそう話した神谷さん。豚舎へと戻るその後姿は仕事に誇りを持つ人間特有の気概にあふれていた。
佐野真慈/写真・佐野真慈
かみや ちかお 1969年生まれ。八重瀬町出身。
養豚業を営む家に生まれ、幼少時から豚に囲まれて育つ。鉄工所や食肉センターなどで働いた後、結婚を機に、本格的な知識がないまま20歳で家業である養豚の世界へ。手探りでの豚舎経営で四苦八苦しながらも周囲の同業者の助けを得て、人工授精への切り替えなどさまざまなことにチャレンジし、今では独自ブランド豚を年間約3000頭出荷。今年は、アグー生産農家の認定も受け、今後の活躍がますます期待される。
ローストポーク
とんバーグ
豚天&豚のゴボウ巻
冷しゃぶサラダ
ローストポークは160℃のオーブンで2時間、じっくり焼くだけ。豚肉100%のとんバーグは合挽きとは違った、なめらかな口当たり。豚天の衣は片栗粉で軽くサクッと揚げるのがオススメです。冷しゃぶは薄切りの肉をさっとゆでるのがコツ!