「表紙」2012年10月18日[No.1438]号
地域の宝を手に
約800坪のハウスの中に、かれんな黄色い花と色づく前の緑色、収穫を待つ真っ赤なミニトマト「姫」が実っている。受粉のために離しているハチが行き来する中、丹念に手入れする長嶺哲也さんは、両親、兄と共に、20歳から農業を続ける。上に伸びるイメージのトマトだが、長嶺さんは、苗を低く保ち、うねとうねの間を台車に座ったまま移動して、収穫作業や手入れができるよう工夫している。大玉トマトと比べて栄養価も高く、手軽に使える野菜として人気のミニトマト。秋から初夏にかけて出荷は長丁場だ。
恩返しのため独立目指す
秋風が吹き抜け、柔らかな日差しが降り注ぐハウス内。
「やっと涼しくなってきましたが、夏場は暑さがこたえます。今年は大型台風の当たり年ですが、あまり影響がなくてホッとしています」と、笑顔で語る長嶺さん。
話している最中も、葉や茎を手でなでて感触を確かめ、苗全体の様子に目を配る。頑丈に組まれたハウスは、行政の補助を受けたと言い、「7〜8千万は掛かる設備ですから、スタート時に援助してもらえることは、個人農家にとってはとてもありがたいです。でも、マイホームは厳しいかな」と、冗談を言って周囲を和ませる。
地元・豊見城市で生まれ育ち、県立農業大学校に進学。最初に目指したのは農業普及員だった。
「JAか、県の普及センターに勤めたいと思っていたんですよ」
しかし、農業を営む一家の次男として、厳しい世界だけど頑張ってみようと決心する。その際に自分に課したのは、家族に甘えないということだ。
「だから、農業を始める際には、両親に雇ってください、とお願いしました。従業員という立場で、働かせてもらっているという意識を忘れないようにしています」
当初、ゴーヤー栽培を任されていたが、農業を始めて7年目、豊見城市全体で力を入れるミニトマト「姫」の栽培に転向した。難しいことの一つが、水の管理だった。
「ミニトマトは、水を与え過ぎないことで糖度が上がります。でも、足りなくてもいけません。天気、温度、湿度などたくさんの要素からつかむ微妙な調整、見極めが難しいですね」
豊見城市のミニトマト「姫」の出荷は、県外の産地で品薄になる秋から初夏にかけて、約9カ月続く長丁場だ。手入れや収穫をより効率的に行うため、苗丈を低く一定に固定している。
「手作りの台車に座って、うねの間をかに歩きのように横に移動しながら作業をします。腰を痛めたりすると、全体に影響が出ますから。安定供給が農家の責任でもありますし」
市のブランドとして確立している「姫」を育てることは、長嶺さん本人だけでなく、同じく姫を育てる仲間に対しても責任がある。
「コナジラミなど、虫が媒介する病気にも細心の注意を払いますが、出荷前には農薬は使えません。皆さん、生で食べることが多いでしょう。共同選果を行っている13農家全体が、チームのように結束して、良い方法を模索するんです」
取材中、花と巣の間をせわしなく行き来するセイヨウオオマルハナバチに目をやり、「出荷期間が長いので、次々に選手交代するんですけど、まるまるっとした体でとっても働き者」と、チームメートを紹介するように言う。
今後、両親からの独立を考えているという長嶺さん。
「ミニトマト、ゴーヤー、マンゴーなどに教えてもらったノウハウを自分の畑で試したいんです」
もし、将来子どもができて、農業に従事したいと言ったらどうしますか?
「反対はしませんが、ゼロから頑張ってほしい。僕もいずれ家族と離れて、ハーブという未知の世界で頑張ってみたいですね」
憧れから代表へ。長嶺さんの夢は続く。
島 知子/写真・島袋常貴
ながみね てつや 1981年生まれ。豊見城市出身。
2人兄弟の次男。県立豊見城高校卒業後、県立農業大学校へ進学。20歳で農業の道へ。同市饒波にある両親の土地で、ゴーヤー栽培を始める。7年前、より収量と価格が安定し、豊見城市も普及に力を入れるミニトマト「姫」の農家へ転身。10月から6月までの長期間、出荷に励んでいる。将来は独立し、農業を続けたいと思っている。
ミニトマトのバジルソース
ミニトマトの塩麹漬け
真っ赤なルビーのような彩りが料理に花を添えるミニトマト。プチッとした食感を2種類の味でいただきます。マヨネーズベースのバジルソースは、湯むきしてソースと融和させ、塩麹(こうじ)漬けは半日置くとより甘みを味わえます。