「表紙」2013年02月28日[No.1456]号
誰もが笑顔の家造り
「ケアリフォーム」。聞き慣れない言葉だが、一言で説明すると「障がいがある人の自立を支援する住環境作り」。北谷町宮城のラムハウジングで、福祉住環境コーディネーター兼福祉用具専門相談員として、障がいがある人も快適に暮らせるケアリフォームを提案する川上晃奈(あきな)さん(29)。「バリアフリーの対象は高齢者ですが、ケアリフォームは高齢者だけでなく、障がいがある若い人や子どもなど幅広く自立を支援をします」と熱っぽく話す。目指すは、障がいがある人も介護者も笑顔で暮らせる家造りだ。
ケアリフォームで自立支援
幼少から建築業に携わる父・優さん(57)の背中を見て育った川上さん。住宅の完成見学会に連れて行ってもらう機会も多く、自然と建築の仕事が好きになっていったという。
県立北谷高校を卒業後、専門学校に通いながら服飾関係でアルバイトをはじめ、正社員になった。22歳で結婚。23歳の頃、長男・伶眞(りょうま)君(6つ)の出産を機に退職した。
もともと「仕事人間」で、伶眞君が1歳になると、働くことに。「好きな仕事がしたい」と、優さんが代表取締役を務めるラムハウジングで働き始めた。
見習いとして営業からスタート。事務職、ホームページの改革、チラシの作成など何でもやった。優さんがケアリフォームシステム研究会に所属していたことから、福祉や建築について学ぶ福祉住環境コーディネーターの勉強を勧められ、24歳で2級を取得。
また、福祉用具専門相談員の資格を取るため、長女・華奈(はな)ちゃん(3つ)の妊娠中、半年間、毎週末、講座を受講。「つわりとの闘いで、本当につらかったです」と振り返る。
体調を崩して1カ月入院したが、25歳で出産。実家の協力の下、産後3カ月で復職した。
父の勧めで学んだケアリフォームだったが、現場で携わると興味が深まった。生まれつき障がいがある子、病気や事故で体が不自由になった人、高齢で介護が必要になった人など障がいの程度に合わせたリフォームを提案し、自立を手助けする。介護者の負担軽減も目指す。
ケアリフォームで重要視するのがトイレ。「自分で排せつできるかどうかは自尊心の根本で、自立につながります。『自分で頑張ろう』って思えるかどうかが大切です」
排せつはプライベートで話しにくい内容だが、使用する本人が満足できるよう、きちんと話し合うことを心掛けている。トイレの向きや寸法、手すりの場所など細かく話す。「トイレ以外は車いすで移動さえできれば何とかなります。家で自分のことができるようになると『外に出たい』と思うようになり、『働きたい』『旅行に行きたい』『恋愛したい』と人生の幅が広がっていくと思います」と話す川上さん。「知識がないとさまざまな提案ができません。福祉機器は年々増え、覚えるのも大変ですが、勉強しています」と向上心を忘れない。
そんな中、夫との関係がうまくいかなくなり、27歳で離婚。「お母さんが笑顔だと子どもも笑顔になれるので、子どもの前では泣かない」と誓い、いつも笑顔で接している。また、仕事への責任感が強くなった。
リフォームの現場では工事を監督する立場だが、建築業は男の世界。重い資材が持てないことをバカにされたり、遅刻した職人が謝らないなど、何度も悔しい思いをした。しかし、「やっぱり建築の仕事が好きなんです」。男の世界で生きていく覚悟を決めた。
建築の専門知識を身に付けようと、夜は2級建築士の専門学校に通う。7月の試験に向けて猛勉強している。週末が子どもたちとのんびり過ごす大切な時間だ。
そんな川上さんには大きな夢がある。「将来、私が社長になったら、子育て中の女性を3、4人雇いたいですね。私もたくさんの人に助けられていますから」と話す。若年結婚が多く、離婚率も高い沖縄のママのために、働く場を提供したいという。
夢への第一歩として、「35歳までに1級建築士の資格を取得すること」が目標だ。子どもたちに恥じない自慢のお母さんでいられるよう、自分の道を信じて、一歩一歩進む。豊浜由紀子/撮影・桜井哲也
かわかみ・あきな 1983年、読谷村生まれ。
県立北谷高校卒業後、日経ビジネス工学院オフィス科に進学。服飾関係でアルバイトし、卒業後、正社員になった。24歳で父・優さんの下で働きながら、ケアリフォームについて学び始める。川上さんが幼い頃、事業に失敗して2億円の借金を抱えた優さん。助けてくれた周囲への感謝の気持ちを忘れないために、群れでしか生きられない羊から「ラムハウジング」と名付けたという。
福祉住環境コーディネーターは、高齢者や障がいがある人に住みやすい住環境を提案するアドバイザー。医療や福祉、建築についての幅広い知識が必要。東京商工会議所が検定試験を主催している。3級から1級まであり、筆記試験に合格すると資格が得られる。