「表紙」2013年03月07日[No.1457]号
想像力を駆使して
県産のカボチャの中で、群を抜いておいしいと評判の南風原町津嘉山産の「津嘉山完熟カボチャ」。完熟期の糖度は20度を超えるというその高い品質は、農家とJA津嘉山が一体となって取り組んできたからこそだ。種をまく時期、定植、収穫。全てこれまでの蓄積されたデータを生産者全員で共有し計算して行っていると、同町でカボチャを生産する大城恭彦さん(49)は話す。「でも大切なのは、どう栽培に取り組んでいけばデータを生かせるか、を感じ取るセンスと想像力が何より必要なんですよ」と力強く語ってくれた。
「完熟」を届けたい
農家の長男として生を受けた大城さんは、両親の苦労を見て育ち、自分は違う道に進もうと考えていたと言う。その別の道を示してくれたのはある映画だった。「小学生の時に『トラック野郎』っていう映画を見たんですよ。菅原文太がかっこよくてね〜。あんな風に全国をトラックで回りたいなって」と、懐かしそうに振り返る。
24歳で大型免許を取得し名古屋の運送会社に就職。「運送業も体力的にはきついですよ。2週間に1回ぐらいしか自宅に帰れませんでしたから、でも、やっぱり楽しかった」
古里を離れて9年。充実した日々を送る彼に知らせが届く。「親父が入院したんです。父親の仕事を途中で放り出しておくわけにはいかないと思って津嘉山に帰ることにしたんです」
父が丹誠込めて育ててきたカボチャ。せめて収穫までと引き継いだが父は他界。長年、農作業から離れていたが戸惑うことはなかったと言う。「子供のころから手伝ってましたから体に染みついてましたね」
畑に没頭する毎日。見事に収穫までやり遂げた大城さんの心には変化が生まれていた。「最初の1年が終われば運送業に復帰するつもりだったんだけど、畑仕事をすればするほど、楽しくなってきてね、やりがいがどんどん出てきて」。もう一年と、もう一年で気がつけば16年経っていたのだと笑う。
その笑顔も栽培法の話題になると引き締まり、「カボチャは品質にバラつきがある作物と思われていますが、そうじゃないんです。きちんと完熟するように育てればみんな甘くてホクホクのおいしいカボチャになるんです。でも、それがとても難しいんですよ」。と、力強い口調に変わる。それほど栽培が難しい作物なのだ。
大城さんは完熟度の目安に、「積載温度」というデータを用いている。積載温度が1200℃になった時が収穫時期として最も適している。「例えば、その日の平均気温が20℃だとすれば、1200℃になるのに60日かかります。そんな風に毎日の平均気温を足していく。暖かい日が続けば、それだけ収穫も早くなるし、その逆も」と解説する。
また、積載温度を生かすために大切なのが「葉」だ。いくら太陽に当てても光合成ができなければ意味がない。「葉を残すことができなくて完熟前にやむなく収穫する人も多いんです。カボチャ栽培は『葉』をいかにたくさん残して実に養分を蓄えさせるかもポイントです」と、話す彼の後ろで、大きく立派な葉が誇らしげにゆれる。
畝ごとの防風ネットや泥跳ねを防ぐ敷き草など、数え上げればきりがないほど施されている工夫は、すべて完熟したカボチャを消費者に届けたいという彼の思いの表れだ。そして、その思いは新品種栽培というチャレンジへとつながっている。
「『くりまさ』と『くりひろ』という品種を試して3年目。なかなかいい感じです。現状を保つことも大事だけど、新しいことを試していくことが一番大切。チャレンジして経験したことを生かせればきっといいものができると思います」。そう話す大城さんの挑戦が自慢のカボチャのように「完熟」する日はそう遠くないだろう。
佐野真慈/写真・佐野真慈
おおしろ やすひこ 1963年生まれ。南風原町津嘉山出身。
あこがれだったトラック運転手として、名古屋で運送業の仕事に就くも、33歳で帰郷。一年だけと考えていたカボチャ栽培だったが、すっかり魅了され現在に至る。1300坪の畑を管理し、収穫量は年間15㌧。完熟したものは糖度が20度を超えるほど甘く、ホクホクしていると評判。ほとんどは県外へ出荷されるが、一部は3月中旬ごろからAコープ津嘉山でも販売される。
カボチャのムース
皮をむいたカボチャをゆでて裏ごしし、ピューレ(150g)を作る。牛乳(100cc)とマシュマロ(100g)をボウルに入れ、500wの電子レンジで2分ほど加熱。完全に溶けたらピューレを加え、ミキサーで混ぜ合わせる。あとは器に入れて、冷蔵庫で冷やし固めるだけ。簡単なのに本格的なスイーツです♪