「表紙」2013年03月20日[No.1459]号
親子二人三脚で奮闘
県民に古くから愛され続けているヤギ。輸入が増えている中、県産を食べてもらいたいと願い尽力しているのが仲里政也(37)さんだ。名護市勝山の仲里農場で父の政和さん (64)と共にヤギの飼育をしている。政和さんが趣味で飼っていたヤギを仲里さんは生まれたころから見ていた。活発な政和さんと比べて仲里さんは内気な性格。大胆な発想をする父と、慎重に進めていく息子のバランスは抜群だ。跡継ぎとして挑戦し続ける毎日に情熱を燃やす。今年1月には家畜人工授精師免許を取得。県内のヤギをブランド化する夢を追い続けている。
愛情与え 命に感謝
26頭のヤギを飼育する仲里農場。オスは4頭で、そのうち2頭は種用。
ヤギの他にシークヮーサーも育てている。無農薬のシークヮーサーの葉をヤギの餌にして、ヤギのふんをシークヮーサーの肥料に使う。それにより予算が軽減するだけでなく、両方が元気に育ってくれるという。「ヤギのふんは肥料として非常に有効です。また、無農薬で作るシークヮーサーの葉には栄養分がたくさん詰まっています。ヤギたちもおいしく食べてくれますよ」と笑顔。
仲里さんは北部農林高校を卒業後、沖縄農業大学で農業についてのノウハウを学ぶ。その後愛知県で約10年間派遣の仕事をした。
政和さんから「ヤギ農家を継いで欲しい」と言われ、4年前に帰郷。学生時に学んだ知識を生かそうと燃えていたが、生き物を育てることは予想以上に難しく、政和さんから怒られることもしばしば。毎日ヤギを相手にしていると、ヤギが嫌になってしまう時期もあったという。
失敗をしながらも時間をかけて経験を積んだ。次第に、ヤギを「育てる」から、「理解する」という気持ちへと変化していった。
「ヤギのことが分かってくると、育てていて楽しいです。愛情もわいてきます。食べておいしかったり、また高い値段で売れるとうれしい」と強調した。
メスヤギの乳は2つしかない。そのため、子供を2頭以上産むと栄養が取れるヤギが偏ってくる。3頭目からは人工乳で育てることを余儀なくされる。人工乳を与えている最中は、「大きくなるんだぞ〜」という思いを込めているそうだ。
ヤギは生まれて3カ月から売りに出す。買い手と交渉し、値段を決める。食用として買われることが多く、肉質の良さと体の大きさがポイントとなる。3カ月のメス1頭の値段は約3万円、オス約4万円が相場だ。4〜5カ月を超えてよく育つと6〜7万を上回ることもあるという。
ヤギは比較的おとなしい性格の動物だ。角を生えないようにするための除角作業を行うと、よりおとなしくなる。
今年1月、仲里さんは家畜人工授精師免許を取得した。同免許は、家畜している動物の人工授精を自分の小屋で円滑に行うための国家資格だ。
「交尾、妊娠、出産は、メスのヤギにとっては心身共に大きな負担です。家畜人工授精師となった今、立派なオスから種をもらい、より良いヤギを育てたいと思っています」と真剣な表情で話す。
小ヤギと笑顔で触れ合う仲里さん。心の中では複雑な思いを抱いているように見えた。「人間は彼らから命をもらっています。『いただきます』とはそういうことなのかな。感謝しないといけませんね」
ヤギを育てるようになって4年目。今後の目標は「愛情を持っていいヤギを育てることです」と元気いっぱいに話す。上級な肉質のヤギのサラブレッドを育てたいと願う仲里さん。県民の食文化として親しまれているヤギだからこそ、県産のものをより多くの人に届けたいと考えている。
キラキラした目でヤギを見つめる仲里さん。ヤギもほほえみ返しているように見えた。
(おわり)
普天間光/写真・桜井哲也
なかざと・まさや 1975年生まれ。名護市出身。
3人きょうだいの二男。北部農林高校を卒業後、沖縄農業大学の果樹専攻コースへ進学。その後は愛知県の車関係の会社で派遣社員として約10年間働く。父の政和さんとは互いの情熱がぶつかりよくけんかをするが、気が付くと忘れているという。穏やかな雰囲気が漂う優しい性格だ。父の政和さんは「きょうだいの中ではおとなしい方だけど、人一番頑張り屋さんです」と話した。
ヤギ汁
仲里さんの家では、お祝い事があるといつもヤギ汁だそう。ヤギ肉は軟らかくてコラーゲンたっぷり。よもぎの葉と合わせて食べると栄養のバランスが取れてオススメです。独特の臭いがあるので、苦手な人は「ボア種」という臭いの少ない種類の肉を試してみてください。