「表紙」2013年04月11日[No.1462]号
メロディーのとりこ
ガジュマルの大木に寄り添い、唇をすぼめる4人の男−。キスを待っているのではない。彼らは「口笛」をこよなく愛するメンバーだ。身一つで奏でるアンサンブルは、どこか懐かしく優しく心に染みる。レパートリーは「ふるさと」のようなゆったりした曲からアップテンポの「ビビデ・バビデ・ブー」まで幅広い。会の発起人の島袋幹也さん(23)は、「口笛で人と人をつなぎたいんです。沖縄から世界に向かって口笛の良さを発信したい」という思いで活動している。頭の中は口笛のことでいっぱいだ。
楽器としての魅力
取材の日、待ち合わせた那覇市おもろまちの新都心公園に、口笛でハーモニーを奏でながら連れ立ってやってきた「おっきなWA」の4人。年代もバラバラなメンバーが知り合うきっかけは、偶然の連続だった。
「あまり知られていないかもしれませんが、口笛は国内に協会が4団体あって、定期的に全国大会があるんです」と、会の発起人である島袋幹也さん(23)。まずはテープ審査に応募し、通過すると大会に出場できる仕組みで、島袋さんは大学1年生の時に初めて出場した。
その時、同じ大会に高校2年生で長崎から参加していたのが中根哲さん(21)。「高校を卒業して琉球大学に進学したら、偶然同じ教育学部に島袋さんがいたんです。『あ、久しぶり』って感じでうれしかったですね」と中根さん。全国大会4位の中根さんと再会したことで「口笛LOVE」が盛り上がり、2010年に「おっきなWA」が誕生した。
動画再生は15万回超
その後、島袋さんの「くちぶえ君の口笛ブログ」を見た沖縄大学の比嘉正人さん(19)が加入。大学生である3人と仲本光 さん(74)との出会いのきっかけを島袋さんに聞くと、「僕は、指笛を楽しむ『指笛王国おきなわ』の皆さんと連携して演奏会をしていたんです。仲本さんは口笛がしたいけど、ちょっと勘違いして指笛王国に来たんですね。それで一緒に活動しようとお誘いしました」
楽しげに話す島袋さんの横で仲本さんは、「小さい時から周りに口笛が上手だとほめられていたんですね。僕はインターネットとか分からないから、みんなとの出会いには本当に感謝しているんですよ」と、島袋さんたちとの活動を満喫している様子だ。
それぞれに口笛を楽しんでいた4人。特に、島袋さんの口笛に対する情熱は半端ではない。自身のブログで全国の「口笛演奏家」とのネットワークを広げ、沖縄からも情報を発信。口笛が吹けない人や初心者向けの「口笛教室」を動画で配信すると、再生数は15万回を超えた。また、在学中の琉球大学に「くちぶえ部」を創立。ゼミでも口笛の研究をテーマにしており、まさに口笛漬けの日々。
まだまだある。「口笛の音の鳴る仕組みを研究して口笛音発生法『ひゆう法』を開発しました。舌を下の歯と歯茎の間に置き、口の形を『ひ・ゆ・う』と動かして声を出さずに息を吐くと、大抵の人は口笛を楽しめるようになるんですよ」。ひゆう法は全国の口笛関係者やプロ奏者からも評価されている。
多くの人つなぎたい
あらためて口笛の魅力を聞いた。仲本さんは、「腹式呼吸をするから、健康に良いんですよ」と太鼓判。比嘉さんは「僕は福祉の勉強をしているので、将来、口笛でたくさんの人を癒やすことができれば」とはにかみながら言う。中根さんは、「もともと作曲に興味があって、アレンジを担当しています。4人の特性を生かせる曲を考えるのも楽しいんです」と話す。
島袋さんも大きな夢を持っている。「口笛は、道具がいらないし、老若男女、吹く人も聞く人も楽しく明るくなるでしょう。たくさんの人をつなぐコミュニティー活動の一貫として口笛を広めていきたい。それと、声帯を失った方に『歌う』楽しさを教えてあげたい。リハビリなどに頑張っている人にも口笛が励みになればと思っています」
午後の新都心公園。彼らが輪になって口笛を演奏し始めると、遊んでいた親子連れや高校生たちが集まってきて観客に。「上を向いて歩こう」「赤とんぼ」など、次々と奏でられる演奏に耳を傾ける。「最後はみんな知ってるミッキーマウス・マーチだよ。吹ける人は一緒にね」と呼び掛けると、小学生たちが演奏に加わった。自然につながった口笛の輪が笑顔に変わり、またつながっていく。
島 知子/写真・桜井哲也
くちぶえ君の口笛ブログ
http://ameblo.jp/okinawakuchibue/