「表紙」2013年06月06日[No.1470]号
爽やかな風が吹き抜ける那覇市首里大名町の大名児童館に、自然と輪ができる。「じんじん じんじん 酒屋(さかや)ぬ水喰(みじくゎ)てぃ 落(う)てぃりよーじんじん」。歌に合わせ、子どもたちも見よう見まねで頭に乗せたお手玉を膝の上にポトリ。お手玉を隣の人に手渡したり、投げ合いっこをしたり。穏やかな時間が流れる。沖縄お手玉の会の田中美也子さん(50)は、「お手玉は、異世代をつなぐツールです。今日も0歳児からおばあちゃんまで一緒に遊んでいるでしょう」と笑顔。優しい感触のお手玉が、今また見直されている。
遊びの伝承目指して
沖縄お手玉の会は、わらべうたを通して親子が一緒に楽しめる活動をしている「NPO法人うてぃーらみや」の活動の一つ。同法人は、沖縄の自然と文化を通した教育の研究・実践を目的に、2003年4月に設立した。
「わらべうたには、子育ての知恵や地域の宝がたくさん詰まっているんです。今の時代だからこそ、それを若い世代にも残してあげたい。それでお年寄りに聞き取りをしているんです」と、田中美也子さんは話す。採集したわらべうたを伝え残していくためには、日常の中に取り入れること。そこでお手玉と結びついた。
「堅苦しく『伝承』と言ってもだめ。生活の中に生きていないと意味がないですよね。そこで遊びの中に積極的に取り入れようと考えました」 03年11月、第15回全国生涯学習フェスティバルin那覇で初めてお手玉体験教室を開催すると、幅広い年代に好評だった。それを機に沖縄お手玉の会を発足。04年に日本のお手玉の会沖縄支部に認定された。現在メンバー10人がお手玉の技を磨く。
「日本〜は愛媛県に本部があり、2年に1度全国大会があるんです。昨年は沖縄から9人が参加して、全国から約2000人が集いました」と木下絵美さん(32)。
お手玉には両手と片手で1〜3個放り上げてキャッチする「振り技」と、お手玉を手に持ったまま一つずつ連続で拾い上げていく「拾い技」がある。振り技競技は「ホテルの大きな広間に全員がお手玉を持って立ってね、お手玉を落とした人は座っていくんです」と大会の様子を紹介する木下さん。最後に残った10人が舞台で技を披露したそうだ。
可能性は無限
大名児童館で行われる月に一度のお手玉の会定例会や定期的に開催する「子育ち支援プロジェクト」の中にお手玉を取り入れる。
取材の日は、0歳児を連れたお母さんたちからお孫さんと一緒に参加した女性まで、約30人の幅広い年代が集まってお手玉遊びが始まった。よちよちと歩きながら、みんなにお手玉を配って歩く子がかわいらしい。全員で円になり、わらべうたを歌いながら頭に乗せた玉をキャッチしたり、次々に隣の人に渡していったり、向かい合って投げたり受け取ったりする。
最初はきょとんとしていた子どもたちも、放り投げたり床の上でお手玉を手で転がしたり、思い思いに戯れている。初対面のお母さん同士でもお手玉をやり取りするうちにだんだん表情がほぐれてきて、動作がスムーズになってくる。受け取るのに失敗してお手玉が遠くへ行ってしまったり、左右渡す方向を間違えたり。児童館の中は、笑いであふれた。
数珠玉栽培や制作も
「私たちにとっては古くからの伝承遊びですが、小さい子にとっては新鮮で新しい遊びなんです」。大人も子どもも世代を超えて、目と目を見つめ合い、お手玉を介して気持ちを合わせる。布と中に入った数珠玉の優しい手触りとシャラシャラという心地良い音が五感を優しく刺激する。
会では、自然の中に少なくなった数珠玉の苗を児童館の中に植え付ける活動やお手玉の作り方を教えたりと、お手玉人口の裾野の広がりに努めている。
「お手玉って優しいでしょう。手から手にそのぬくもりも届けたいんですよね」と話すメンバーたち。一人でも大勢でも楽しめるお手玉遊びの風景に、見ている方も和んだ。
島 知子/写真・呉屋慎吾
(左から)メンバーの城間あかねさん(35)、木下絵美さん(32)、田中美也子さん(50)、兼島育子さん(53)。2003年、第15回全国生涯学習フェスティバルin那覇でお手玉体験教室を出展したのを機に発足。04年に日本のお手玉の会沖縄支部に認定。現在会員は10人。毎月第4土曜日に大名児童館(那覇市首里大名町2-75)で定例会として一般参加者を募り、会員がお手玉の作り方やお手玉遊び、お手玉に入れる数珠玉の苗植えなどを行っている。
参加費は会員と子どもは無料、一般500円。
問い合わせは同会 ☎098(886)5083