「表紙」2013年10月03日[No.1487]号
豊かな海を身近に
沖縄の豊かな海を象徴するサンゴ礁。その魅力を身近に感じたいと素潜りで楽しむ団体がある。素潜りサークル「FLUKE—UP!(フルークアップ)」だ。通常のダイビングと違い、機材を管理したり、海中でボンベの酸素残量を気にしたりする必要はない。最小限の道具を身に付けて、水中でも自由でいられる。その姿はまるで空を飛ぶよう。代表の一人、鈴木隆裕さん(37)は「危険を伴う海だからこそ、仲間と潜って安全性を高めたい。沖縄の海の美しさは素潜りでも十分楽しめますよ」と話す。
仲間と潜って安全に
フリーダイビングとも呼ばれる素潜りで海を楽しむサークル「FLUKE—UP!」。サークル名は、クジラが尾を水面に上げる動作を意味する。潜る時のフィンの動きが似ていることから命名した。
記録より楽しみを
鈴木隆裕さんは静岡出身。ダイビングを通して沖縄の海に出合い魅せられて、2005年に移住した。素潜りは当初、潜った深さを競う競技を目的としていた。「最初は一人で潜っていました。ただ20mを超える辺りから暗くなってきて、不安になります。安全面を考えて、仲間がほしいと思うようになりました」と振り返る。
フリーダイビングのサークルが見つからなかったため、ネットを通してサークル結成を呼び掛け。集まった数人で、05年9月に結成した。
鈴木さんと共に代表を務める井村文繁さん(42)は結成当初からのメンバーだ。
井村さんもダイビングから入り、競技目的のフリーダイビングに引かれていった。「自分の限界に挑戦できます。普段は無意識にしている呼吸などを意識しますし、精神的にも鍛えられますね」と魅力を話す。
35mまで記録を伸ばしたころから、次第に興味は素潜りを楽しむことに向かった。「サンゴ礁の美しさや色とりどりの熱帯魚。そういうものをもっと楽しみたいと思うようになりました」と笑う。
サークルは現在、深さを追究するより、素潜りを楽しむことに軸足を置いている。潜れる深さで人を分け隔てしないというルールを大切にしている。
素潜りに必要な基本的な道具は、マスク、シュノーケル、フリーダイビング用の長いフィンの3点セット。それにウェットスーツを着る程度で、その手軽さも魅力の一つだ。約5年前から参加しているライオン加奈子さん(38)は「ダイビングもしますが、今ではほとんど素潜りだけ。機材のメンテナンスをする必要もなく、さっと行けるから素潜りが好きです」と話す。
家族で付き合う
結成から8年。これまで本島周辺とは違う海の透明度や魚の多さを体験する船からの潜水、元旦に水面から初日の出を拝むイベント、初心者を対象にした練習会などをしてきた。近年は、仕事や育児に忙しいメンバーも多い。それでも月に1回ほど、恩納村の真栄田岬や糸満市の大渡浜海岸など本島中南部で潜っている。
井村さんは現在、小学1年生の蒼太君を連れて海に来る。「海は大好き。泳ぐのが好きだけど、潜るのはまだ怖い」と蒼太君。井村さんは「アットホームな雰囲気で、2世代で海を楽しめるようになれたらいいですね」と語る。
鈴木さんも、サークルで知り合った智愛さん(33)と結婚。2カ月前に子どもが産まれたばかりだ。鈴木さんに負けないくらい素潜り大好きな智愛さんは、育児の息抜きに潜りにくる。「夫に子どもを任せて、潜るんです。海の中では開放された気分になれて、体が軽くなる。元気になって帰っていけます」と笑う。
サークルでは安全性を重視して、必ず複数で潜っている。また飲酒後の潜水を禁止。その他にも、安全性を高めるための助言をしているものの、最終的な判断は個人に任せている。「絶対に事故を起こさないと約束することはできません。自己責任であるということを理解した上でサークルに参加してほしいです」と鈴木さんは厳しい一面を見せる。
しかし、新しいメンバーは常に大歓迎だ。「今後も、楽しく、安全に、いつでも、誰でも参加できるようにしたい。一緒に潜ってきた仲間を大切にしながら、若い人に入ってもらいたい」と話した。
岩崎みどり
写真提供:FLUKE-UP!
現在メンバーは約10人。月1回ほど、恩納村真栄田岬、北谷町砂辺海岸、糸満市大渡海岸などで潜る。特に参加に必要な資格は特にないが、安全面の責任を自分で持つことが条件。
詳細はホームページ
http://www.geocities.jp/zon_freediver/