「表紙」2013年10月10日[No.1488]号
変幻自在に技繰り出す
ブラジル発祥の伝統舞踊を取り入れた格闘技「カポエィラ」。円の中で軽く手を合わせてスタート。高く蹴り上げた相手の足を身を縮めてくぐり抜けたり逆立ちをしたり、全身を使った複雑な動きで対戦する。そして周りでは弦楽器や打楽器を手に歌い、演奏するメンバー。「カポエィラは、音楽と踊りと格闘技の融合です。相手の動きを読んでこちらも動く心理戦の要素も面白い。おにごっこのような楽しさもあります」と代表の原満彦さん(35)は話す。
じっくり相手を観察
「カポエィラ」の発祥は、ブラジルがポルトガルに支配された16世紀ごろ。支配者に連れてこられたアフリカ人の奴隷が武術の練習を隠すため、舞踊と音楽と融合させたのが始まりといわれる。
審判のいないカポエィラは、「ビリンバウ」という弦楽器を持ったリーダーが歌いながら、試合をコントロールする。それをコンゴなどの打楽器を担当するメンバーが「アイヤイヤイヤ」と掛け声で補佐する。4拍子の曲の途中、リーダーが3拍子で弦をはじいて「やめ」の合図をするまでプレーは続く。一プレー何分などの規定はない。
「手技、足技など基本の型はありますが、カポエィラは相手の動きによってさまざまに体の動きを変えていくんです」と代表の原さん。演奏される曲によってゆっくりとした動きになったり、鏡合わせのように回し蹴り技を急速で繰り返したり。同じプレーは一つもない。
「一対一の格闘技ですから体の接触もありますが、カポエィラは相手にダメージを与えないスポーツなんです」と原さんと共に団体を立ち上げた岡崎竜真さん(34)は話す。パンチやキックなど攻撃技を繰り出す時も、相手の次の動きを瞬時に読んで角度、高さを変える。守り側も次の技を察知してうまくよけて体のバランスを保つ。その攻守が瞬時に入れ替わるのも魅力の一つだ。じっくり相手を観察する心理戦でもある。
「それに、受け継がれてきた歌は無数にあります。本国では毎月新曲が出ているそうですよ」と岡崎さん。自然や人間愛をテーマにした曲に乗せて行われる、ユニークな格闘技でもある。
立場に関係なく
メンバーはそれぞれ会社員や主婦、ダンサーなど職業や立場も異なり、始めたきっかけもさまざま。岡崎さんは、「ある日、公園を通ったら楽器の音が聞こえて。なんだろうと見学したらカポエィラだったんです」と偶然の出合いを回想する。「雑誌で『次に来るダイエット!』って紹介されていて。おなかすくから私の場合は食べちゃって痩せないんですけど、体幹が鍛えられるからおしりがキュッと上がりました。肩こりなどの悩みも解消したんですよ」と話す、事務職の田丸尚絵さん(32)。田丸さんも立ち上げメンバーの一人。女性らしい動機で始め、体の変化に驚いたという。
原さんは「僕は福岡の出身で、以前からブラジルの文化に興味がありました。移住した時、沖縄でもぜひカポエィラを発展させて普及させたいな、と団体を立ち上げたんです」と話す。大阪に本部がある「グルーポジ・カポエィラ・カドシ・カプージャポン」の公認団体として福岡、埼玉、新潟に次いで2006年に結成した。「団体に加盟すると、本部の指導者のレッスンが受けられるんです」。メンバーが締める帯の色も本部が認定する習熟度によって変わる。
「でも僕たちメンバーには上下はないんです。老若男女誰でも始められて、続けられるのが特徴の一つでもあるから」
強い仲間意識
練習風景を見ていると、6カ月前に始めた女性と逆立ちなどの大技もこなす原さんや岡崎さんも楽しそうに対戦している。「楽器ができるようになったら誰がリーダーになってもいいんです」と原さん。対戦しながらニコニコしているメンバーを見つめながら、「いたずらっ子がたわむれ合っているようにも見えませんか?」と原さんは笑顔で続けた。
「運動不足だし体が硬いとできませんか? とよく聞かれますが、カポエィラは懐の深いスポーツ。何より楽しいですから」
合い言葉は「皆仲間」。対戦相手と仲良くなれる格闘技なんて、ますますユニークではないか。
島 知子/写真・桜井哲也
ブラジル発祥の伝統舞踊を取り入れた格闘技「カポエィラ」団体。2006年設立、大阪に本部があるグルーポジ・カポエィラ・カドシ・カプージャポン公認。現在メンバーは7人。ビジター会員も数人いる。毎週火曜日(19時〜21時)は那覇市牧志のほしぞら公民館で、土曜日は那覇市樋川の神原中学校(19時半〜21時半)で練習に励む。参加は1回500円。見学は無料。本部から定期的に指導者を招きレッスンも行っている。
http://www.capu.jp/lequio