「表紙」2014年02月27日[No.1507]号
勇壮な舞見せたい
音が聞こえなくても、エイサーを踊りたい—。聴覚に障がいがある人たちが2013年11月に立ち上げた創作エイサー団体「天龍舞(てんりゅうまい)」。中城村の津覇青年会が手話通訳と協力して20〜40代のメンバー15人に指導している。太鼓や衣装も同青年会から借り、練習場所もなかなか見つからないという不十分な環境の中、「私たちのエイサーで観客に夢と感動を与えたい」と3月2日の初舞台に向けて猛特訓している。目標は、沖縄全島エイサーまつりへの出演だ。
全島エイサー目標に
太鼓の音と三線のメロディーが響き渡る沖縄市比屋根の県総合運動公園体育館サブアリーナ。一見、普通のエイサーの練習だが、曲が終わると手話通訳が細かい演舞内容を説明する。「障がいを乗り越えて舞うイメージ」で名付けたという「天龍舞」のメンバーに、手話通訳を介して話を聞いた。
試行錯誤で練習工夫
「仲間たちと沖縄全島エイサーを見てカッコイイと思い、自分たちも踊りたくなりました」と言うリーダーの池原淳さん(30)。みんなで知り合いに声を掛け合ってメンバーを集めた。サブリーダーの呉屋宣圭(のぶよし)さん(31)が所属する中城村の津覇青年会(義間透会長)の協力を得て、2013年11月に「天龍舞」を結成。メンバーは難聴でかすかに音が聞こえる人から全く聞こえない人まで男女15人。同青年会から3人の指導者と地謡が参加し、日曜と月曜の夜に練習している。
最初は、同青年会が踊りを録画したビデオを見ながらまねた。同青年会前会長で「グスクの響き!実行委員会」会長の新垣勇起さん (26)は、「みんな真剣で、踊りを覚えるのも早かったです」と振り返る。2カ月かけて踊りを覚え、練習は順調のように思えた。
ところが、実際に太鼓を持つと音がバラバラ。「リズムをとってもらうのが大変。音を合わせるのが難しいですね」と新垣さん。身ぶりを大きくして合図を出したり、一人ずつ肩をたたいて回ったりするなど試行錯誤を重ねている。メンバーの配置も工夫し、前列に難聴の人が並び、前のタイミングを見て後方の人が太鼓をたたく。地謡の久保田まどかさん(26)が「仲順流り」や「スーリ東節」など5曲をつなげて演奏する。
エイサーの経験者は、池原さんとサブリーダーだけ。前列のサブリーダー・島袋善彦さん(49)は、「みんなで合わせるのに時間がかかります。俺が間違えたら、見た人みんな間違えます」と苦笑いする。同じく前列の呉屋さんは、「4歳から6歳までエイサーを踊り、19歳の時、津覇青年会で再びエイサーを始めました」と言う。4歳の時、高熱で聴力が落ち、現在は音が少し聞こえる程度だが迫力の舞で皆を引っ張る。
全体の事務調整も行っている新垣春華さん(26)は、「指導者の皆さんが私たちとコミュニケーションをとるために手話を覚えたり、スタッフの人が差し入れをしてくれたり、皆さんに支えられています」と感謝の気持ちを語る。
練習場所探しに苦労
念願の初舞台「耳の日」のイベントに向けて練習に励んでいるが、夜に太鼓をたたける場所が少なく、会場探しに苦労している。また「津覇青年会から太鼓を借りていますが、数が足りません」と池原さん。今年9月に第48回全国ろうあ者体育大会が県内で開催予定で、「まだ決定ではありませんが、ぜひアトラクションで踊りたいと思っています。しかしエイサーの時季で津覇青年会から太鼓や衣装を借りられません。それまでに太鼓や衣装を集めたいです」と強調する。参加メンバーはもちろん、手話通訳や太鼓を無償で提供してくれる人も探している。寄付も募っている。
「エイサーが上手になったら、各地の祭りや老人ホーム、障がい者施設、学校などで演舞し、見る人に夢と感動を与えたいです。目標は、沖縄全島エイサーまつりに出演することです」と意気込むメンバーたち。少しでもいい演舞を見せたいと真剣に、そして精いっぱい、汗を流す天龍舞を心から応援したい。
豊浜由紀子/写真・桜井哲也(Sakuracolor)
聴覚に障がいがある人たちが2013年11月に結成。現在、男女15人(大太鼓5人、締太鼓10人)。日曜と月曜の夜に練習。中城村の津覇青年会のメンバーがエイサーを指導している。20歳以上で聴覚に障がいがある人なら未経験者でもOK。手話通訳のボランティアも募集中。大太鼓や締太鼓の無償提供、練習場所も探している。活動資金の寄付も募っている。3月2日に那覇市の県総合福祉センターで開かれる耳の日記念大会で初舞台を踏む。フェイスブック「天龍舞」で活動の様子も紹介している。
天龍舞への参加、サポート、出演依頼などは tenryu1110dancing@yahoo.co.jp