「表紙」2014年03月06日[No.1508]号
水の文化を伝えたい
豊富な雨量に恵まれながらも、河川が少なく水が貴重だった沖縄。そんな沖縄で、人々の生活を支えてきたのが湧き水だ。飲み水はもちろん、洗面や入浴、農業に至るまで、水なしに人々の暮らしは成り立たない。「湧き水には、人が生きていく上での基本がつまっているんです」と湧き水fun倶楽部代表のぐしともこさん(46)は話す。地域と密接に関わり、人々のさまざまな記憶や歴史が織り込まれた湧き水。その文化を掘り起こし伝えるため、各地の湧き水の情報収集と発信を行う。
湧き水の価値を見直す
湧き水fun倶楽部には、長い前史がある。ラジオ沖縄で15年間続いた長寿番組「湧き水紀行」だ。初代のパーソナリティーは、倶楽部の発足メンバーの一人、ごやかずえさん(50)。二代目のぐしともこさんと合わせて、二人で合計600カ所の湧き水を巡った。
「各地の湧き水で地域のお年寄りの話をたくさん聞き、沖縄について多くを学びました」とぐしさん。番組は2009年に終了したが、積み重ねた記録を印刷物として残し、地域の人々に還元したいという思いから翌年6月に倶楽部を設立した。
メンバーの個性光る
発足時のメンバーは、ぐしさん・ごやさんの二人に、渡辺達也さん (50)を加えた三人。渡辺さんはもともと湧き水巡りが趣味で、「外回りの仕事の合間に、湧き水を見かけたら写真を撮っていました」と頬をゆるめる。
倶楽部は、市民主体のまちづくりを推進する浦添市まちづくりプラン賞を3回受賞している。市の助成を受け、第1回の受賞では「浦添市湧き水MAP」を作製。増刷が必要なほどの好評を博した。
第2回の受賞では、活動の仲間作りも兼ねて、勉強会を開催。歴史、文化、生物、自然環境など、湧き水をめぐるさまざまなテーマの勉強会に、のべ300人が参加した。勉強会の常連や講師が、現在、倶楽部で活動する主なメンバーとなった。
集まったメンバーは、それぞれ得意分野を持ち、講師やガイドを務めることもある。その一人、「水は恋人」と笑う金城義信さん(77)は、県の企業局で40年にわたって水道に関わってきたスペシャリストだ。「湧き水には歴史あり、生活あり、伝説あり。湧き水があるところには、物語がある」と熱弁をふるう。
「私は、子どもの頃、川や湧き水が遊び場だった最後の世代。その後、川は汚れて入れなくなった」と話す桂浩史さん(51)は、大学の海洋学部で学んだ水と環境の専門家。
理科の教員を長年務め、地質や生物に造詣が深い浪岡光雄さん(64)、歴史ガイドの資格を持つ鈴木辰三郎さん(73)も、それぞれの専門知識を生かし、倶楽部の活動を支えている。
地域の水源を大切に
メンバーの持つこれらのさまざまな才能が結晶したのが、第3回の浦添市まちづくりプラン賞を受けて作られた冊子「浦添の湧き水」だ。冊子は、自然、環境、歴史、文化といった多様な切り口で、36ページにわたり市の湧き水についての情報を提供する。
その中でも目をひくのが、「災害と湧き水」というテーマ。県の企業局で配水係として勤務していた上間恒信さん(74)は、「阪神淡路大震災の時に現地に赴いた経験から、水のありがたさを感じました。水がないのは地獄の生活」と語る。ぐしさんも「日頃から地域の水を大切にしておかないと、いざという時に明暗を分ける」と訴える。現在、湧き水の非常用水への利用は倶楽部の大きな関心となっている。
倶楽部の次なる課題は「沖縄湧き水カルタ」。県内41市町村すべてが入った湧き水カルタの作製に取り組んでいる。「水道のなかった頃は、地域ごとに水源があった。地域のものであった水というものを忘れたくないんです」とぐしさん。
今も静かに地域に流れ続ける湧き水。その流れは確実に未来へと続いている。
日平勝也/写真・桜井哲也(Sakuracolor)
湧き水をとりまく文化、自然環境を学ぶため、2010年6月に発足。湧き水散策も行うが、メーンの目的は情報収集と発信。現在、趣旨に賛同した10名のメンバーが活動している。11年に「浦添市湧き水MAP」、14年に「浦添の湧き水」を発行。学習会やイベントの企画、講師やガイドの派遣も行う。
問い合わせ wakimizufun@yahoo.co.jp
湧き水fun倶楽部 活動記録(ブログ)
http://wakimizufun.ti-da.net