「表紙」2014年04月03日[No.1512]号
パシーン、パンパン、パン-。那覇市奥武山町の県立武道館に、鋭い音が響く。赤いシャツに身を包み、日々鍛錬に励むのは、格闘技団体「赤雲會(せきうんかい)」のメンバーだ。中でも中村広輝さん(29)=写真中央=は、キックボクシングの選手としてREBELS65㎏級3位、LEGEND63㎏級王者、TENKAICHIスーパーライト級チャンピオンの実力を持つ。県内だけでなく、東京などで行われる試合にも挑むファイターだ。仕事や学業と練習を両立させ、夢を追う彼らの練習風景を追った。
練習場である県立武道館の休館日に当たる火曜日以外は毎日、2時間みっちり体を動かす。防具を身に付けた相手に、ハイキック、ローキックなどの足技、フック、ストレートなどのパンチを3分間途切れることなく続け、周りから「あと1分」「あと30秒」「粘れ、頑張れ」と声が掛かる頃には、ラストスパートの攻撃を続けながら「うあー」と地響きのような声が漏れる。
メンバーの松山力也さん(26)は、嘉手納町で行われる大会「KーSPIRIT8」直前で、最後の調整に集中していた。前週より、見るからに頬がこけている。「練習が激しいことに加えて、減量でご飯を食べられないので免疫力が落ちるんです。今は、体調管理に細心の注意を払っています」と語る。試合を楽しみに待つファン、同じように調整する対戦相手のためにも欠場はできない。そこまで追い込み、試合に挑むことを、初めて知って驚いた。
16歳からテコンドーを始め、格闘技界でさらに自身を高めたいと練習に励む高江洲奨さん(24)は、5月に行われるTENKAICHIに出場予定。「リングに上がることは確かに怖いです。だから練習します」と話す。実は、インタビューの直前、中村さんとのスパーでカウンターパンチをまともに受けて意識が飛び、崩れ落ちた。「さっきKOされた瞬間ですか? まったく記憶がないんですよ。気付いたら、後頭部に誰かが枕を当ててくれている。あれ? って」。その傍らでは、スパー相手の中村さんが、「ごめん、ごめん」と平謝り。周りのメンバーは、「大丈夫か?」「今のすごかったっすねー」とねぎらう。
紅一点の滿石麻美さん(30)は、熊本県出身。地元で行われた中村さんの試合を観戦し、感激して沖縄へ移住。赤雲會の門を叩いた。「赤雲會は仲間意識が強い。必死で付いていきたい」と語る。
ところで、会の名称「赤雲會」とは? 「台風の前に、空が赤く染まるのを見たことがありますか? あれが試合前の怖いような、ワクワクするような心境を映し出していると、師匠が付けたんです」と中村さん。メンバー全体の良い緊張感を表したネーミングに思えた。
島 知子/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)
◇沖縄の事象を色で切り取ります。4月は「赤」です。