沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1525]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2014年07月03日[No.1525]号

RED OKINAWAカラー 14

OKINAWAカラー 14

青春は海とともに サシバ・ヨットクラブ

 沖縄の青い空と海を満喫できるマリンスポーツ。ヨットはその代表格といえるだろう。大きな帆を揚げ、波に揺られるヨットは何とも優雅で豪華。一方で風と潮だけを頼りに航海するため過酷な一面も持つ。県内外のレースに参加するサシバ・ヨットクラブは40年の歴史を持つ、沖縄を代表するクラブ。結成メンバーで会長でもある東江正喜さん(72)は「自然相手のヨットは奥が深く、学ぶことが多い」と話す。日焼けした顔が見詰める先にある穏やかな海。海にささげた青春は今も輝き続けている。



海への冒険心尽きず

 宜野湾マリーナを拠点とするサシバ・ヨットクラブ。所有するサシバ5は4代目のヨットだ。全長48㌳(14・6㍍)の大型艇。船内には居間、寝室2部屋、トイレ2つ、シャワーがある。居間には大きなテーブルとコンロが付いている。

 ヨットマンは豪快だ。嵐との遭遇を「慣れると対処の仕方が分かる」と笑って話す。大海原を旅するだけあって細かい事は気にしないようだ。一方、船内で共同生活をするクルー同士の信頼は厚く、メンバー同士を「ヤーニンジュ(家族)」と呼んでいる。



草分け的存在

会長の東江さんは琉球大学ヨット部の創設者でもある。復帰前の当時、情報も少ない中で米軍施設内にあった泡瀬ヨットクラブに通い指導を受けた。見よう見まねでヨットも手作りした。沖縄に合宿に来た名古屋大学など名門校と交友を深め、知識・技術を得ていった。

 1972年、沖縄の日本復帰を記念して沖縄ー東京間ヨットレースが開催された。出場は県外のクラブのみ。「沖縄からも参加を」と声を上げた東江さん。それに泉崎病院(現・おもろまちメディカルセンター)の元院長、故・城間祥行さんが応えてサシバが結成された。4年後、サシバは同レースに沖縄から初出場した。

 船長、桃原秀明さん(61)も琉大ヨット部出身。学生時代に沖縄初の太平洋横断を果たした人物だ。米兵のヨットを米国へ運ぶ「勇気ある青年はいないか」という広告を見て、仲間2人と手を上げたという。

 当時はGPS(衛星測位システム)も冷蔵庫もない。太陽や天体を観察しての航海。野菜を水耕栽培し、釣りで魚を捕った。その魚で海鳥を捕獲したこともある。2週間ごとに嵐を体験し、出港から72日後にサンフランシスコに入港した。

 船上で語られる数々の武勇伝は「優雅で豪華なスポーツ」のイメージを打ち砕く。



若手を育てる

 経験豊富なヨットマンばかりで固めているわけではない。若手の育成にも力を入れる。会員は18人で、毎週土曜に定例メンテナンスと乗船を実施。希望者は参加できる。ボランティアで地域の子どもを乗せることもある。

 馬場加奈子さん(41)も若手の一人だ。仕事の都合で千葉県から移住し、10年前に出合った。「始めたら自分に合っていた。出港するとエンジンを使わないところが好き」と話す。力仕事もこなす他、長距離レースではクルーの食事を担当する。

 県内を中心に短距離から長距離レースに参加するサシバ。4月29日〜5月4日、沖縄ー愛知間の東海ヨットレースに参加した。メンバー9人が乗船。ゴール前日には平均26㍍の風に1日中吹かれた。湾に入ると一転、風がなくなった。

 今年で3回目の同レースに、サシバは毎回出場している。「360度海しか見えなくなっても怖くない」と話す馬場さんは毎回乗船。「天候の変化を体験できて今年が一番楽しめた」と、笑顔でふり返った。

 同じく乗船した保井明博さん(67)はレース前にはジムに通い体力を付けるという。「かじを握るのに足を使うから鍛えないとね。毎回、疲れるから次は乗るのをやめようと思うけど、日程が近づくと武者震いがする」と笑う。

 もちろん東江さんも乗船した。「体力を付けるのと同時に、機械類の取り扱いやセール修理のために裁縫も学ぶ必要がある。気象や天文、ケガの対応も大切。共同作業だからチームワークの取り方も知らないといけない。自然相手だから危険を予測しないとね」。学びが尽きることのないヨットは、冒険家たちの心を捉えて離さない。

岩崎みどり/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)

このエントリーをはてなブックマークに追加



サシバ・ヨットクラブ
サシバ5乗船を楽しむサシバ・ヨットクラブのクルーたち。左から馬場加奈子さん、伊佐善一さん、大城智さん、桃原秀明さん、東江正喜さん、高良繁雄さん、金城福康さん、林由紀子さん=宜野湾マリーナ沖 
サシバ・ヨットクラブ
サシバ5はメンバーで出資して2000年に購入した。しっかり手入れをすれば数十年持つという
サシバ・ヨットクラブ
船内での調理風景。揺れるためロープに寄りかかって調理する。揺れに合わせてコンロが動く
サシバ・ヨットクラブ
2年ごとに開催される東海ヨットレースの参加プレート。全3回出場したのは全国で4艇のみ
サシバ・ヨットクラブ
クルーはお客さまとして乗るのではなく、できることで助け合うのが鉄則。出港などの作業は全員で協力して行う
サシバ・ヨットクラブ
のんびりと波に乗るサシバ5。エンジンを切ると驚くほど静かだ
サシバ・ヨットクラブ
サシバ・ヨットクラブ
 毎週土曜に宜野湾マリーナでメンテナンスと乗船を行っている。
フェイスブックはhttps://ja-jp.facebook.com/sashibayachtclub
>> [No.1525]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>