「表紙」2014年08月28日[No.1533]号
オレンジ色の美しい夕日をバックに、思い思いのポーズを決めるカップル—。石垣島を拠点にブライダルやイベントの写真・動画撮影などで活躍する美流(本名・林拓哉)さん(39)は、「夕日シルエット撮影」も行っている。体全体が影になり表情は分からないが、どの作品も幸せに満ちあふれている。「顔が見えない分、リラックスして撮影に臨め、飽きがこない写真が撮れます」と語る美流さん。大切な瞬間を切り取った一枚は、家族の一生の宝物だ。
人生の節目に心寄せて
秋田県出身の美流さんは高校卒業後、東京の印刷会社で3年ほど勤務した。石垣島出身の女性と結婚し、妊娠中、体調が悪かった妻の故郷に21歳で移住。初めての沖縄だった。
整備士として働いたが、体調を崩してしまった。室内でできる仕事を探し、出版物の編集をパソコンで行うDTPオペレーターなどを始めた。
猫の写真が転機に
その後、猫の毛を一本一本丁寧に描くトールペインターの栗原真弓さんと出会う。二人で「にゃんこのしっぽ♪」というコラボレーションを開始。猫の実物大トールペイントや樹脂粘土のストラップの制作の他、猫の撮影、保護活動などを行う中、動物写真家の堀明さんから取材を受けた。美流さんの猫の写真を見た堀さんは「写真を撮るタイミングが良く、運がある」とカメラマン・写真家になることを勧めたという。
それまで撮影した猫の写真を見直すと、「ただ猫が写っているだけで、表情がないことに気付きました」。独学でプロを意識しながら写真を撮り始めた。約3カ月後、猫雑誌に掲載してもらえるようになり、28歳ごろカメラマンとして本格的にスタートした。
最初は猫ばかり撮影。動物写真の道に進もうと考えていたが、「娘を撮ってほしい」と依頼を受けた。「同じ人間だし、会話ができました(笑)。人間も撮れるなって思ったんです」
県立八重山病院などで写真展を開催しながら情報誌や猫雑誌などに寄稿。ブライダルにも活動を広げていった。動画専門カメラマンの小浜英克さんから動画撮影を習い、写真と動画の両方に携わる。
また、2013年3月に新石垣空港が開港し、格安航空会社が就航。石垣ー沖縄本島を結ぶ便も安くなった。「本島での撮影もニーズが多く、多少でも応えたい」と「美流Photo in 沖縄」を設立した。「美流」は、移住前に所属していたバイクのレーシングチームの名前だ。
「夕日が沈むまで撮影してほしい」という声が多く、13年、「夕日シルエット撮影」をスタート。1日1組限定で、好きな時間から夕日までスポットを一緒に回りながら撮影。時間を気にせず思う存分撮影でき、カップルや家族などから人気だ。
メーンのシルエット撮影は、日没の1時間ほど前から準備。「青空のグラデーションも残った夕日がキレイなんですよ」。顔が写らない分、ポーズが重要だが、それぞれ個性があり、同じカットは撮れないという。
夢は全国無料出張
さまざまなブライダル撮影に携わってきた美流さん。最近、思うことがある。「ブライダルがカジュアルになり、挙式もラフになって、フォトウエディングの重みそのものもラフになっている気がします。カジュアルになることは悪いことではないけれど、物事まで軽くなるのは違うのではないか…」
また、新郎が無関心すぎたり、新婦が自己主張しすぎたり、挙式前日にちょっとケンカをしている新郎新婦がいたり、「両親はどう思うのだろう?」と考えるようになった。そこで大きな夢が芽生えた。「写真集2冊込み! 撮影代金無料! 全国出張可能!」という撮影スタイル。条件は写真集を2冊購入し、1冊を新郎の両親にプレゼントすること。「新郎新婦に結婚への意識や重みをあらためて考えつつ、カジュアルに、自由に、好きな撮影に臨めるのではないかなと。まぁ、全国無料出張するには宝くじに当たらないと…」と苦笑いするが、口調は真剣だ。
「写真は一生もの、孫の代まで受け継がれるかもしれません。そう考えるととても縁深いもの。撮影に臨む精神面も大事にしながら撮りたいですね」
人生の大切な節目に心を寄せ、シャッターを押す美流さん。いつの日か全国無料出張が実現することを願っている。
豊浜由紀子/写真・片倉有梨(FPDー07)
美流Photo in 沖縄
http://biryu-photo.jimdo.com/ ☎ 070 (5499) 3819〔美流〕