「表紙」2014年09月04日[No.1534]号
フワリ、フワリと舞うように優雅に羽ばたくオオゴマダラ。日本最大級で沖縄を代表するチョウだが、魅力は大きくて美しい羽だけではない。さなぎは金色に輝き、見る人を圧倒する。「成虫も美しいけれど、金色のさなぎは格別です」と話すのは、うるま市ちょうちょう愛好会の第8代会長・山城忍さん(53)。同市内外から120人ほどが参加する同愛好会でチョウの生態を学び、食草を栽培、飼育などを行う。チョウが飛び交う癒やしの街を目指す。
食草栽培に力注ぐ
植木につり下がった、オオゴマダラのさなぎに歓声を上げる、うるま市まどか保育園の園児たち。同園も「市ちょうちょう愛好会」のメンバーだ。園庭には、オオゴマダラの幼虫が食べる食草、ホウライカガミが植えられている。
副園長の喜屋武昌美さん(56)は「10年ぐらい前に植えました」と身長より高く伸びたツルを見渡す。よく見ると、黒い幼虫があちこちに。「子どもたちはチョウが大好き。幼虫だって平気です。職員も最初は怖がっていたけれど、今はかわいくて」と幼虫を手に取り笑った。
ギネスに認定
愛好会は1999年、うるま市になる前の旧具志川市で発足した。当時の市長・知念恒男さんが「オオゴマダラの舞う豊かな街づくりを」と、市民団体に呼び掛けたのが発端。環境や保育関係の団体が加わり、愛好会となった。
事務局を務める知念實さん(59)は設立時からのメンバーだ。「みんながチョウに詳しかったわけではないですよ。食草の育て方も分からず、植え付けてもダメになったこともあります」と振り返る。
うるま市立城前幼稚園に勤める会長の山城さんは保育園の団体として活動に加わった。「農地も多い地域だから『なぜ農作物を荒らすチョウを増やすのか』と言われたこともあり、オオゴマダラはホウライカガミ以外食べないことを説明してきました」と打ち明ける。
勉強会や市民がチョウと触れ合う取り組みなどを通して活動は広がり、2010年には設立10周年記念として1808匹を放蝶する催しを開催。放蝶数世界一でギネスブックに認定された。
今では小学校などでチョウの学習を支援。チョウ園を造りたいという観光施設にノウハウを伝授している。さらに「記念事業に放蝶したい」という要望を受けて市内外の公共機関などに成虫を提供するなど、多方向で活躍している。県外の昆虫園から協力依頼を受けることもあるという。
手入れ欠かせず
「アンマーウーヤー」「ニーブヤーチョウ」など地域ごとに方言名を持つオオゴマダラ。それだけ昔から親しまれてきた。食草は喜界島より北では育たない。その意味で、オオゴマダラは沖縄を代表するチョウだ。
しかし生息数は減少していた。「ホウライカガミは雑草に負けてしまいます。だから他の植物が育ちにくい海岸沿いに多かった。でも沿岸部の開発で少なくなり、それによりチョウも減ったんです」と事務局の知念さんは説明する。
愛好会の主な活動に食草の栽培がある。希望する公民館や学校、病院、事業所などにホウライカガミを植え付ける。会員にも苗を配る。
ただ、成長がゆっくりで虫に食べられることも多く、最初の1年は手入れが欠かせない。そのため、苗を配布しても、枯らしてしまう例も多いという。「30㌢伸びるのに3カ月かかります。チョウを見て『きれいだ、自分もやりたい』と思っても、簡単に考えると失敗します。今後はもっと食草栽培の指導に力を入れたいですね」と知念さん。
一方で好奇心から参加し、熱心な会員になる人も多い。又吉国夫さん(66)は2年前に会員になった。「もともと生き物が好きで、児童センターで植樹しているのを見て自分もやってみようかと思いました」と話す。今は保育園や学校を訪問し、チョウについて教えている。
美しいオオゴマダラ。しかし自然界では捕食される側の弱い立場だ。「だから生物の多様性を知るバロメーターになるのです」と口をそろえるメンバーたち。沖縄の豊かな自然を象徴するオオゴマダラが飛ぶ街づくりへの活動は確実に広がっている。
岩崎みどり/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)
うるま市ちょうちょう愛好会の事務局は知念實さん
☎ 098 (974) 1821
〔知念整骨院内〕