「表紙」2014年10月09日[No.1539]号
真っ白な生地に、優雅で色鮮やかな紅型の模様が浮き立つ。浦添市港川で工房とショップを構える「紅琉(びんりゅう)」の下地秀樹さん(41)、ナホさん(40)夫妻。本染めと本革にこだわった財布やバッグなどの「紅琉」と、キャンドルや白磁などに特殊なプリントを施した「Panapari」の2つのブランドを展開している。「紅型の色が映える白地をベースにしています」と秀樹さん。暮らしの中で気軽に紅型を取り入れてほしいという思いを込めて商品開発を行う。
「使いたい物」を形に
宮古島市出身の下地秀樹さんと浦添市出身のナホさんは、県内の広告代理店で同僚だった。営業マンを4年務めた秀樹さんは、「何十社というクライアントを取り扱う中、一つの会社で商品の開発・販売促進をやってみたい」と28歳で退職。企画、マーケティングを担当していたナホさんも仕事を辞め、29歳で秀樹さんと結婚。二人で京都に引っ越した。
秀樹さんは、京都に本社があるシルバーアクセサリーの会社に転職し、商品開発や販売促進に携わった。服が好きでデザインに興味があったナホさんは、京都の伝統工芸・京友禅の染め工場で働き、テキスタイル(生地などに使う図案や配色など)を学んだ。
京都では、京友禅の古典的な柄を現代風にアレンジして商品開発をし、成功している工房が多い。「『友禅=日本』で誰もが知っていますが、県外で『紅型』と言っても分かりません。沖縄の紅型を今風にアレンジして気軽に使ってもらえるものを作りたい」(秀樹さん)。二人は京都で約8年間過ごし、2006年、沖縄に戻った。
スタートは愛犬用品
最初は愛犬のためにリードや首輪を革と紅型で作った。服は無地の生地にさりげなく紅型のラインを入れた。07年に那覇市内にショップを開き販売を開始すると、口コミで評判が広がった。08年、浦添市港川に移転し、工房兼ショップ「紅琉」を立ち上げた。
ナホさんはデザインを起こし、サンプルを作成。秀樹さんはこれまでのノウハウを生かして販路拡大を展開する。紅型組合や工房の協力を得て、本染めをワンポイントに使った財布やバッグなどの本革商品を開発。何十種類もある本革から好きな色・手触りを選び、ワンポイントに紅型をあしらうオーダーメードだ。
しかし、本染めは製作に時間がかかり量産化できない。染めにムラがあるため、販売は県内限定だった。そこで、「暮らしで語り継ぐ伝統」をコンセプトに商品を展開するブランド「Panapari(パナパリ)」(宮古の方言で「花畑」)を11年にスタート。紅型をスキャンしてテキスタイル化し、特殊な機械でプリントを施したアロマウォーマーや壁掛け時計などリビング用品が中心だ。宮古・八重山を含む県内約35の主要ホテルで販売する他、県外の物産展などでも紅型を知るきっかけになってほしいと出展する。
表札からシャツまで
二人の商品開発の根底にあるのが「自分たちが使いたい物」。試行錯誤しながらサンプルを作り、商品化していく。ショップの看板が必要になり思い付いたのが、琉球石灰岩×紅型デザインの「ちゅら表札」。愛犬・カリンの死後、「カリンをしのぶキャンドルが欲しかった」(ナホさん)と、「紅型キャンドル」を作った。外側の模様が楽しめるよう、内側だけが溶けるよう工夫した。
秀樹さんが約1年かけて作った「紅型ビジネスちゅらシャツ」は、ノーネクタイでも洗練されたイメージでデザインした。襟を高くし、細身のシャープな印象。袖の裏地にも紅型を入れたこだわりの一枚だ。
これまで約200アイテムを開発し、約150品を商品として取り扱う。今後の抱負についてナホさんは、「食器はデザインまで作っていますが、顔料で色の出方が違うのでとても難しい。まだまだ開発中ですが、ぜひ商品化したいですね。靴も作りたいです」と語る。また、「建築資材もやっていきたいし、贈って喜ばれるギフトも作りたい」と秀樹さん。互いに持っている力を出し合って欲しい物を形にする二人。これからもさりげなく生活に溶け込むオシャレな紅型アイテムを生み出していく。
豊浜由紀子/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)
浦添市港川2-9-10
☎098(995)6656
※ショップは完全予約制
那覇市西のロワジールホテル那覇や名護市喜瀬のザ・ブセナテラスなど県内約35のホテルと、那覇市安里のカーゴスギャラリーなどでも販売している